東北地方太平洋沖地震

　昨日の地震が発生した14：40頃だったろうか、私は西新宿のビル8階にいた。今まで経験したことのあるものとは異なる、何か不吉なものを予感させる突然の横揺れが、この階にいた人々を緊迫感で覆った。誰もが人間的な感覚よりも本能的な目付きと動作をして、その揺れがどの程度のものになるのか体全体で感じ取ろうとしている。ガラス窓のブラインドが大きく横に揺らぐ。床全体が揺れ、立って地震を感じながら部長が「皆、机の下に入れ！」と皆に言う。一人は、S氏は開口部を確保するために、扉の所へ行き、開けて手で押さえている。ビル自体の振動音が聞こえ始める。女性たちの悲鳴が聞こえる。振動は止まない。やがて更に大きくなりキャビネットの中の物が落ちたり、椅子が勝手に動き始める。キャビネットを背にして坐っていた私も、それを避けるために机の列の内側通路に移動する。悲鳴と事務機などのがたがた動く音が入り混じって、どうなっているのかよく分からない。あぁ、このままキャビネットが倒れてきたり建物が壊れたりするのだろうか、と思う。
　暫くして揺れが収まる。自分の机に戻り事務所の中を見回すと、暴れまわったキャスター付き椅子が通路を塞いでいる。ブラインドはまだ左右に動いている。と油断をしていると、また余震。女性たちは少しパニック状態になる。窓際の部屋を覗いてみると、キャビネットが落下している。廊下に設置してあるシュレッダーが倒れて、裁断された紙が散乱している。カラーボックスが倒れて、置いてあったコピー用紙が床に落ちている。倉庫は書類が沢山詰まった段ボールや教科書が入れてある棚が倒れ、扉に凭れかかっていて、扉を開けることができないので、倉庫に入れない。
　ビルの中は危険なので、一度ビルの外にでるようにと部長が指示する。エレベーターは既に止まって動かない。全員、非常階段とビルの中の階段を使って外へ出る。他の会社の人々が避難をせずにそのまま留まっていることが分かる。その会社では誰も指示を出していないようだ。外には近くの店の人々も出て地震について話している。「震度いくつって今仰いました？」「震度6らしい。」
　一旦、ビルの外で待っていた私達は、近くの柏木公園に移動することになる。
　柏木公園には、既に多くの人々が避難してきていて、人間で溢れ返っている。卒業式などもある時期で、学生の姿も多い。その群集を見ていて、私はパニックについて、戦争状態について、東京空襲について、難民についてあれこれ思いを巡らしていた。職場のK先生と一緒に移動したのだったが、この抵抗することのできない自然現象について話した。余震は何度もやってくる。足元がぐらつくのでそれと分かるが、電線を見るとその揺れの大きさは歴然としている。その都度緊張感が走る。その時私達が話していたのは、こういう状況にある時は、何よりも正確な情報が必要で、その情報はテレビやラジオやインターネットに頼るしかない。しかし、我々の誰もその時それらを使える状態になっていなと言うことだった。
　30分くらい経ってからだろうか、事務所のあるビルの下に戻るようにと言われる。そして戻って待っていると、今日は業務中止で帰宅するようにとの指示である。しかし、交通網が遮断されているので、帰ることはできない。ある人々は腹ごしらえに行き、ある人々は事務所に戻る。私はこんな寒い外で来る当ての無い電車を待って体力を消耗するよりも、事務所に帰ってインターネットで状況を調べ、運転再開するのを待つことに直ぐに決める。
　1階は白い大理石が壁に貼ってあるのだが、エレベーター扉枠の土台部分が地震のために一部砕けて破片が散っている。エレベーターはまだ動いていないので、8階まで歩いて上がってゆく。左の膝の軟骨を傷めているので、動作が鈍く、これは結構大変なことだった。8階に戻って2時間ほど経ってから、再度今日の作戦を考えた。どうもこれは長期戦になる可能性がある、腹ごしらえをしておかずばなるまい。いつもは帰宅後食事するのであるが、同僚たちと外食することに決める。階段を降りて外へ出ると、青梅街道沿いの歩道は徒歩で帰宅する人々で溢れている。いつもは見ることの無い光景である。大ガードの交差点で信号の変わるのを待っていると、大阪からたまたま出張してきていたJSさんが「凄い人ですね。」と言うので私は「今、ざっと数えましたが3543人、この交差点にいまんな。」と似非関西弁で言うと、「いや、3544人でんな。私をいれて。」と返される。むむ、恐るべし関西人。「しもうた、あんたはんカウントせなんだ」と私は慌てて付け加えるが、タイミング的には今一つであった。
　解散したことになっていたが、少しずつ他の部署の人々も戻ってくる。行き場所がないからである。明るくて暖かくて、ラジオのついている、インターネットの使える環境を皆求めていた。インターネットで地震情報、交通情報をずっと見続けていたが、結局は12時までに小田急線は運転を再開しなかったので、翌日の始発以降で帰ることにした。暖房が付かなかったのだが、私は暖房の使える他の階の部屋で睡眠することなく、PCの前にいた。寝具のない場所で眠ることで、風邪を引くことを避けるためである。そして、5：45新宿発の急行に乗って帰宅した。
　昨日は、仕事などで新宿に来ている人々が沢山いたが、電車は使えず、トイレも使えず休む場所もなく相当に苦労されたと思う。立教大学、青山学院、都庁、新宿高校など、空間を提供したようだが、こういう助け合いは本当に大事である。他の府県からの応援が大災害となっている福島、宮城などの被災地に急行しているとニュースが報じているのを聞いて、同僚に話す。「こんなに困った時、こんなに思いやりのある行為のできる人間は本当に素晴らしいのに、戦争をするのもいると言うのが悲しいですね。」
　結局のところ新宿は震度は5弱であったことが分かったが、5弱でこれだけのパニックに陥った職場の状況を考えると、史上最大級の震度8.8になった、大津波の来た被災地の状況がどれだけ凄まじいものであったかが分かる。
　行方不明の皆さんが無事であることをお祈りします。

コメント 16

新宿は震度５弱でしたか、　日経では東京の震度５強と出ていたので
私が芸予地震で体験した強さと同じだと思っていました。
ビルの８階にいらしたのですから、揺れは増幅されていた事でしょうね。
冷静の対処なさったアヨアン・イゴカー様の行動にnice！を。
ご無事で何よりでした。
余震にもお気を付け下さい。
by 青い鳥 (2011-03-13 14:41) 

ご無事でなによりでした。
膝の軟骨を痛めていて階段を８階まで上がるのは大変でしたでしょうね。
しかし、多少のパニックがあってもアヨアン・イゴカーさんの人間性が救ってくれそうな気がしますね。こんな事態に交差点で似非関西弁のツッコミ漫才が出来るなんてのは、たくましいというか年の功というか…（笑）
by 扶侶夢 (2011-03-13 16:29) 

ご無事で何よりです。
8階の揺れが想像できませんが、すごい体験をされましたね。


by 海を渡る (2011-03-13 16:55) 

ご無事でなによりです。
by 夢空 (2011-03-13 21:04) 

　都心の知人は、3時間歩き、5時間歩き、野宿などと申しておりました。
　しかし大地震で飛び出したにしては、えらい会話ですね。もっとも真面目な話、恐怖で震えて立ち尽くす人よりは確実に生存率が高いと思います。
by にすけん (2011-03-13 21:48) 

明日からの停電が心配です。。。
by 甘党大王 (2011-03-13 21:57) 

こんばんは
ご無事で何よりです。
私も率先して節電に協力を
させていただこうと思います。
これ以上被害が広がらないことを
祈ります。
by スマイル (2011-03-13 22:41) 

ご無事で何よりです。

by ねじまき鳥 (2011-03-13 22:44) 

ご無事で何よりです。
関東では地震の直接被害より、今後の電力事情が心配ですね。
そして、首都圏が混乱すると、被災地への援助がスムーズに行かなくなるのではないかと、心配しています。
by optimist (2011-03-14 20:52) 

ご無事で良かったです。
ビルの上階は、かなり揺れたでしょうね。
今回の揺れは、本当に不気味な揺れ方でした。
早く余震が収まり、援助がすすむことを願っています。
by nachic (2011-03-15 11:03) 

始めまして
我がブログに訪問　ｎｉｃｅ！有難う御座います、
是からも・お付き合いの程、宜しく お願い致します。
by okin-02 (2011-03-15 17:37) 

ご無事でよかったです
東北のあまりにも悲惨すぎる状況に
東京をはじめ関東の被害が報道されるの少ないけれど
オフィースの中とかガラスが割れたりとか
交通網のこととか．．．大変なのですよね
まだ余震があったり．．．くれぐれもお気を付け下さいね
by sak (2011-03-17 14:27) 

こんばんは。
大変怖い体験をされたのですね。８階の揺れは相当なものですね。
私はうちに居たので大丈夫でした。部屋の中も棚の人形とビデオカセットが落ちた程度でした。耐震構造というのが多少利いているのかも知れません。とにかく外出中の被災は恐ろしいと思いました。
by sig (2011-03-18 00:40) 

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by アヨアン・イゴカー (2011-03-19 17:04) 

青い鳥様
震度5弱と言っていましたが、強だったかもしれません。最初は飲食店の人々は6だと言っていましたから。それにしても、6以上だったらもっと酷いことになっており、7だったら無事ではなかった可能性もあり、ぞっとしました。

扶侶夢様
関西の人は、勿論人によるでしょうが、こういうユーモアのセンスが素晴らしいと思いました。JSさんはTOEIC講座などの授業も担当されているのですが、関西の生徒は「最も相応しい答えを選べ」と書いてあっても「別に意味通じるからいいやん、なんでこれだとあかんの？先生」と言う根本的な質問が来るので手強いと言っていました。

海を渡る様
やはり上の方が揺れが大きいようです。高層ビルの野村ビルは本当にぐらぐら揺れていて、見ていて気持ちが悪くなった、と事務所の女性が言っていました。

夢空様
有難うございます。
安穏と暮らしていたかもしれませんので、貴重な体験でした。

にすけん様
動いている私鉄で帰宅した人は、猛烈な混み様で、「妊婦だったら子供が口から出てきそうなくらい」な押され方だった、と言っていたようです。

甘党大王様
計画停電、結構、大きな影響が出ていますね。木曜日は海江田経済省の発言で、17：30までに帰宅するように指示が出ました。電車は込み合って、余計な時間が掛かってしまいました。こんな時に限って気分の悪くなった乗客が2名も同時に出たりして、その対応で5分、7分、10分とどんどん遅れるのです。遅れるために駅に乗客が溜まり、乗り降りでまた時間を取る、悪循環です。仕方ありませんが。

スマイル様
妻も節電には心掛けていて、帰ると玄関の明かりも消えていますから、ちょっと不便ですが、なんのその。

ねじまき鳥様
ありがとうございます。とりあえず皆無事で、ほっとしています。

optimist様
電力不足は経済活動に大きな影響を及ぼしますから、それが復興の足かせになることも心配です。
新聞によれば、ヤマト運輸、佐川急便他の運送業では、10トン車は救援に回しているようですね。集荷も通常19：00近くまできてくれるところ、今週は15：00までと言っていました。いろいろな業者、分野の人々が応援していることが分かり心強いです。こういう時には職場で義捐金を集めますので、それに参加するくらいしかできませんが。

nachic様
余震が本当にしつこいですね。これは精神的に非常に宜しくないので、早く収まって欲しいものです。

okin-02様
これからも宜しくお願いします。

sak様
有難うございます。
国会図書館の蔵書120万冊が落下したと言う記事を読みましたが、考えてみれば棚から本が落ちるのは当然の震度でした。国会図書館は日本の知識の砦で、後世に残しておかなければならない宝物ですから、地震対策は万全にしておいて欲しいものです。

sig様
同じ麻生区でも我が家の地域よりも震度が大きいところもあったようです。翌日帰宅して部屋の中を確認しましたが、幸いにも床に落ちていたのはCDと若干のカセットテープだけでした。ピアノの足に固定用の円盤をはめておかなかったので方向が変わったりしているのではないかと心配していましたが、多分殆ど移動していないようです。
by アヨアン・イゴカー (2011-03-19 17:41) 

地震の時、新宿にいらっしゃたんですね。
ご無事でよかったです。

数日前に新宿伊勢丹の６階にいた方と
話しをしましたが、もの凄く揺れて、本当に怖かったと
言っていました。
電車も停まっていたので、帰ってこれなかったのだろうと思ったら、
５時間歩いて帰ってきたそうです。
長時間あるいてでも、その場から離れたかったのでしょうね。


by youzi (2011-03-26 09:26)