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ジャックと豆の木 その2(後半) [短編小説]

 連日連続して報道される大地震の被害は、多少計画停電があっても普通に暮らしている私を明るい気持ちにはしてくれない。しかし、経済活動が停滞してしまっては復興そのものに大きな影響がでる。八百長問題で興行が中止になった大相撲も、ナイターの照明使用で試合実施を再考しているプロ野球でも、実施しなければ経済活動がその分野に置いては停止してしまい、よいことは少しも無い。人、物、金、サービスなどが動かなければ経済活動と言うエネルギーは出てこない。関わっている人々、依存している人々に大きな影響の出ないように、速やかに、且つ良識的に進めて欲しい。
 地震ありて更新する気力も聊か減退しおりしが、上記の理由により(へへへ)、このやや不謹慎な物語を復活せんと思ふ。

 翌日の早朝、あんまり空腹で水ばかり飲んで小用を足す為に起きたジャックが見たものは、巨大な豆の木でした。バベルの塔もかくこそありしか、というばかり、木は雲の中まで届いています。馬鹿と煙は高いところがお好き、の例にもれず、この楽しそうな遊具を見つけたジャック君は早速朝飯前に登りはじめます。

 随分時間を掛けて登ってゆきますと、やがて雲の上に到達します。雲の上には道がありましたので、そこを歩いてゆくと、大きな屋敷が見えてきました。ジャックは本当に腹が減って死にそうでしたので、その屋敷の扉を叩いてみました。すると優しそうな若い女が出てきて言いました。

「ここは、人食いの巨人の家ですよ。食われるといけないから、早くお逃げなさい。」

「俺、腹が減っているので、飢え死にするくらいなら巨人に食われた方がましだよ。何か食べさて下さいな。」

若い女はジャックに食事を持って来てくれました。食べると朝からの疲労ですっかり眠くなってしまったジャックは屋敷の中のゴミ箱にもぐりこんで眠ってしまいました。

 暫く経つと大きな足音がしました。巨人が帰ってきたのです。

「おい、人間の臭いがするぞ。どこだ?どこにいるんだ?」

「何を言ってるんですか、旦那様。それは昨日食べた粉屋の小僧の足があそこに転がっているからでしょう。そんなことより、早く一杯お飲みになったら。」と言って強いウィスキーをなみなみとカップに注ぎます。巨人はそれを美味そうに一口で飲み干します。女はどんどん注ぎます。羊やら牛やらをぺろりと平らげて、巨人は満足そうにして、戸棚から鶏を取り出しました。そして言いました。「産め!」そうすると鶏は金の卵を一つ産みました。また巨人は言います。「産め。」するともう一つの金の卵が出てきます。続いて棚から小さな竪琴を出して食卓の上に置きました。この竪琴には船首像と同じように女神の像がついています。首の部分が回転するようになっていて、巨人がそこを回して手を放すと、天上の音楽が聞こえます。その音楽を巨人はうっとりとして聞惚れているうちに、うつ伏せになって眠り込んでしまいました。

 一部始終をゴミ箱から覗いていたジャックは、抜き足差し足忍び足で巨人に近付くと、これらの宝物を壁にぶら下げてあった布袋に入れて、若い女にはお礼も言わずに逃げ出しました。そして、必死に豆の木を降りて家に帰りました。

 

「おっかさん、ただ今。」

「どこをほっつき歩いていたんだい。」

ジャックはそこで巨人の屋敷の話をして、袋から戦利品を取り出します。

「おっかさん、見ておくれ。俺これから面白いもの見せてやるから。」と鶏を卓に置いて「産め!」と言います。でも何もおこりません。

「ほら、この馬鹿息子!なんにも起こらないじゃないか。」ジャックも焦って、鶏の背中を押したり鶏冠をさわったりしてみます。すると一つの金の卵がころりと出てきます。

「あれまぁ、こりゃぁ、おったまげた。金の卵を産む鶏!これで大金持ちだね。流石私が腹を痛めて生んだ息子だよ!もう一回やってみな。」

「産め!」ジャックは得意そうに命令します。しかし、雌鶏ピクリともしませんし、金の卵も出てきません。「なんだか変だなぁ、おっかさん。」

「何してんだよ。早く早く。あたしたちゃぁ金持ちにならなければならないんだから。」

ジャックはいよいよ焦りますが、全くだめです。普通の卵も出てきません。癇癪もちのジャックは怒って雌鶏を床に叩き付けてしまいました。すると、金属音がして、雌鶏の首がポロリと取れてしまいました。

「あれっ!これって、作り物だ。嫌になっちゃう。ぜんまいがはいっているぞ。」

made by john.JPG「本当だ。何だか見覚えがあるけど、これはお前の父さんのジョンが作った鶏だよ。ほら、この腹のところにメイド・バイ・ジョンてぇ書いてある。お前の父さんの、下手糞な字だよ。」

「ということは、この金の卵は?」とジャックは指でごしごし擦ってみます。

「なんだ、絵具が塗ってあるだけ?もう嫌になっちゃう。でもね、この竪琴は結構優れものだと思うよ・・・」とやや自信なさげに袋から例の竪琴を取り出します。

「何、その下手糞な女神の像かな、それ、鬼瓦?」と母親。

「これ、女神の胸像でしょう。これね凄いんだ。首を捻るとね、歌を歌うんだぜい。」とジャックは汗をかきながら、自分が贋物をつかまされたことを否定しようとして、竪琴の素晴らしさを訴えようとします。首を半回転して手を放すと、オルゴールが鳴り始めます。

「なかなかいいね。これは売り物になるかもしれないよ。」と母親。「私にもやらせてご覧。」そういって欲張りな母親は首を三回転させました。その時、ぐきっ、と鈍い音がして、首がやっぱりぽろりと取れてしまいました。「えっ!なにするんだよ、おっかさん。」

「馬鹿いいなさい。三回回しただけでしょうが。三回で壊れてしまうもんなんか、売れんね。」と居直っています。ジャックはがっかりして、女神の首を拾います。

「あれ、ここにもなんか字が書いてあらぁ。メイド・バイ・ジョン?あぁ、もう、いやになっちゃう。」

「そうよ、それがお主の親爺様の本性。分かるかい?こんなことばっかしやってたの、結婚以来。どれだけあたしが苦労したか、少しは想像できるだろ?」

ふと窓の外を見ると、豆の木が揺れています。「あっ!」とジャックは言うと、斧を持って外へ飛び出します。そして、急いで豆の木を根元から切りました。すると不思議なことに、豆の木はぐんぐん空に上がってしまい、とうとう見えなくなりました。お蔭様で、ジャックを追って降りてきた巨人も、落ちてくることはありませんでした。

 

 この事件以来、ジャックはすっかり山師のような生活、考え方を改めて、平々凡々な暮らしを熱望するようになりました。母親も毎日、平和に普通の生活ができることですっかり満足し、優しいよい母親になりました、とさ。


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コメント 11

扶侶夢

待ちに待っていた「後編」書き下ろし、ありがとうございました。大変面白く参考になりました…(何の?)創作の真髄を感じさせる寓話ですね、まったく!
P.S. 物語の始まる前口上が、アヨアン・イゴカーさんらしくって良かったです(笑)
by 扶侶夢 (2011-03-20 00:56) 

青い鳥

新ジャックと豆の木、大人にとってはこちらの方が面白いですね!
by 青い鳥 (2011-03-20 17:17) 

mimimomo

おはようございます
人間は平凡が一番ですね^^
by mimimomo (2011-03-21 07:16) 

sig

そういえば、こんなお話でしたね。懐かしく読ませて頂きました。
ラストがハッピーエンディングというのは、アヨアン・イゴカーさんのお話らしくなかったかな。それとも私の読みが浅かったか。
by sig (2011-03-21 18:56) 

t-youha

今だからこそ、物語の最後に書かれてある

>平和に普通の生活
>すっかり満足

といった言葉が身にしみますね。
平和で普通に思える生活が、ほんとうは一番の幸せなのでしょうね。
忘れずにいたいと思います。


by t-youha (2011-03-21 19:11) 

Kanna

アヨアンさんの書かれるお話ってどれもとても人間臭くて良いですね(笑)
前回の桃太郎のお話しといい、こちらのお話しといい、とても楽しく読ませて頂きました。
また新しいお話、楽しみにしています^^

by Kanna (2011-03-21 23:31) 

doudesyo

こんにちは。
いつも応援ありがとうございます。
いま余裕がなくてじっくり見れませんが、後でのんびり出来た時にまたコメントさせて下さいね。^^;
by doudesyo (2011-03-22 11:23) 

yuyaさん

アヨアンさんの書くお話はいつも独特なユーモアが挟まれていますね。
それがまた平和を感じさせてくれます。
by yuyaさん (2011-03-24 23:26) 

youzi

平凡になんてって思いますが、
実は平凡が一番いいんだなって思いますね。
by youzi (2011-03-26 09:29) 

アヨアン・イゴカー

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by アヨアン・イゴカー (2011-03-27 23:30) 

アヨアン・イゴカー

扶侶夢様
前口上、私は結構重要視しておりますので、このコメント嬉しいです。

青い鳥様
結末で豆の木を切ると、大男が落下してくることになっていますが、想像するだけでなんとも大男が可哀想だったのこんな風にしました。

mimimomo様
平凡であることを十分に楽しみながら生きる平凡さ、好いですね。

sig様
この物語は、最後にはめでたしめでたしなので、私もそれに従いました。
25年前に書いた台本作品では、大男が落下して死ぬのですが、その時ジャックは「神は死んだ!」と叫ぶのです。

t-youha様
人生普通に平凡に生きていることを社会が許しません。黙って会社で坐っていたとしても、向上を求められ、競争を求められ、じっとしていることが許されませんものね。会社の存在をかけて、平凡でないことが求められます。

Kanna様
お越し頂き有難うございます。
どれだけ書き続けるか自分では分かりませんが、まだまだ書くことになるでしょう。

doudesyo様
地震の報告書を拝見していると、被災者の方々がどのような状況にあるのか、どのような心理状態で暮らしていらっしゃるのかの一端が分かりました。放射能の問題はどうも、根本から解決しないと、将来に禍根を残しそうですね。青い鳥さんが記事の中で紹介されている平井憲夫さんのurlを拝見しました。当然、彼に対する強い反論はあるようですが。でも、本当に原発が安全ならば、電力会社の社長、原子炉製作会社の社長や重役達、原子力安全・保安院のお偉方が現場に行って実況中継をしてくれる必要があります。放水作業にしても陣頭指揮を執ればよいでしょう。専門的なことは分かりませんが、危険でないというならば、原発の脇に別荘を造って住んでみて頂きたい。それから話を聞いて見たいものです。

yuya様
私はお分かりと思いますが、実はかなり皮肉屋です。

youzi様
平凡、それはダウ平均のようなものなのかもしれません。個々人は平凡ではありえず、個々人の人生を平均すると平凡になるのかもしれません。




by アヨアン・イゴカー (2011-03-28 00:14) 

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