ジャックと豆の木 Jack and the beanstalk その1 [短編小説]
今日は、20年以上前に短い芝居としてペン画家の師岡さんのために書いた『ジャックと豆の木』を、全面的に書き直したものを公開。電車の中で金曜日に五分の一ほど書いたものを、今日書き足して完成。二回に分けて発表。
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ジャックと豆の木 2011/3/6 日曜日
貧しい農夫とその息子ジャックが、毎日のように言い争いをしながら賑やかに暮らしていました。どうして貧しかったかと言いますと、夫であるところのジョンが、一攫千金を狙う山師のような人間だったからであります。納屋を錬金術師の実験工房のようなものにして、野良仕事もしないで毎日実験に明け暮れていて、ある日轟音がしたので妻が飛んでゆくと床の上で虫の息になっていたのであります。そして手当ての甲斐もなく、多くの借金を残して死んでしまいました。
母親一人では大きくなったジャックを食べさせることもできないので、ジャックと母親は、どんどん貧乏になり、とうとう売れるものは牝牛だけになってしまいました。にもかかわらず父親の山師気質をしっかりと受継いだジャックは七つの大罪のいくつかもしっかりと見に付けていましたから、少しも働こうとはしませんでした。ちなみに、ジャックは『ジャックと豆の木』と言う話が大好きで、そらんじていました。
ある日、食べるパンもなくなりそうになったので、母親がジャックに言います。
「おい、ジャック!もうそうやってごろごろ寝転んでいるのはよしな!」
「寝転がっているたぁ、人聞きの悪い。俺はこれでも頭を休めながら考え事をしてんだぁ。」
「どうせ、おぬしは変なことを妄想しているに違いない。」
「これだから凡夫、凡人の無知は度し難いのよ。俺と言うこの崇高な存在を前にして、妄想などという偏狭なる言葉で俺の発想力、想像力を貶める。妄想力とは、これ巨大なる宇宙的なる発想力でもある訳よ。」
「あぁ、おやじそっくりだ。でもさ、ジャック、腹が減っては人間生きてゆけませんよ。」
「そりゃぁそうだ。」
「じゃぁ、顔でも洗って、町へ行ってきな。牛を売ってくるんだよ。出来るだけ高い金でね。それで小麦粉を買ってくるんだよ。」
「じゃぁ、行ってくっか。」そう言うとジャックは、いやいや牝牛を市場に引いてゆきます。
道をしばらく歩いてゆくと太った肉屋の親爺が木陰でニヤニヤ笑っています。
「おい、ジャック、どこへゆくんだね?」
「俺ですかい?市場まで、この牛を売りに行くとこですよ。」
「痩せた牛だなぁ。」
「餌が少ないもんで、ちょっとほっそりしていますが、美味しい乳を出しますよ。それこそ天の川のような。」
「そうかい、そうかい。ところでジャック、わしはな、好いもんを持っているんだ。ほれ、見てみろ。」と帽子一杯のつやのいい美味しそうな豆を見せてくれます。
「なんだか、きれいな豆だぁ。」とジャックもすっかり魅了されています。物語と一緒じゃないか、こいつは素敵だ!と心の中で叫びました。
「そこの牛と交換しようぜ。」
「でもさ、この牛は売って小麦粉を買わなければならないし、お金も持ち帰らなけりゃ、母ちゃんに殴られるもの。」
「おまえな、ジャック。芸術、霊感とはなんたるか知ってるか?」ジャックが首を傾げていると「直感だよ。見て好いと思ったものは、お前の人生を明るいものにしてくれる。この芸術的な感動なしの人生なんか、なんと味気ないことか。さぁ、芸術を楽しめ!人生は感動あらばこそじゃ。なっ?いいか。持ってけ、泥棒!」
結局気づいてみると、やっぱり、ジャックはすっかり幸福な気分になって豆の入った帽子を大事そうに持って家に帰ったのであります。
「ただ今、おっかぁ。」
「あら、お帰り。早かったね。」と母親は怪訝そうな顔でジャックを見ます。「小麦粉の袋は?お金は?」
「おっかぁ、芸術だよ、人生は。そんな小麦粉だのお金だの・・・いけませんねぇ。もっと人生を楽しまなきゃ。」
「何を寝惚けたことを言ってんの。あれ、なんだいその帽子の中の豆は?」
「これかい。よくぞ聞いて下さった、おっかさん。これこそが芸術の輝き。」と肉屋の親爺の受け売りをします。
「なんだと?まさか、おまえ、牝牛とその豆を交換したんじゃぁあるまいね?」
「そのまさかですよ。」
母親はすっかり逆上して、ジャックから帽子を取り上げると、その豆を怒りに駆られて庭にぶちまけました。この晩、ジャックに食事が与えられなかったのは当然の話でした。
こんにちは^^
何だかわたくしまで、お腹の皮と背中の皮がくっつきそうです(--;
by mimimomo (2011-03-06 15:28)
御登場をお待ち致しておりました!
豆から芽が出るといいのですがね。
わくわくしてちょっぴり心配。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-06 17:06)
庭に蒔かれた豆がどう変化していくか、
次回が楽しみです。
by 青い鳥 (2011-03-06 19:51)
こんばんは。
お話の展開が楽しみです(^。^)
by yakko (2011-03-06 20:48)
直感だけで生きている私には、この肉屋のおじさんの言葉は何と素晴らしい!
ジャックがこの後幸せになることを期待したいです。
by glennmie (2011-03-06 20:55)
穏当なすべり出しですが,今後の展開が楽しみです。
by Enrique (2011-03-07 09:20)
何度もすみません。
アヨアン・イゴカーさんの「ジャックと豆の木」のことを一言、今日の私のブログ「すずめの佐和音ちゃん・・」で書かせていただきました。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-08 10:55)
いつもながら、美味しそうな設定と交わされる会話の力の抜け具合が最高です。これまた楽しみな・・・
by にすけん (2011-03-09 14:07)
ご無沙汰しています、Kannaです。
記事とは無関係ですが、地震の方は大丈夫でしたでしょうか。
とりあえず安否のご確認まで…。
また改めて記事を拝見しに参りますね。
by Kanna (2011-03-12 07:08)
東北地方太平洋沖地震の被害状況が明らかになってきましたが、本当に大変な状況ですね。
アヨアン・イゴカー さんは、大丈夫でしたか?
我家の付近は、結構揺れましたが、周囲も含め家屋の被害も全く見られませんでした。
とはいえ、東北地方は、本当に深刻な被害なようで、心配です。
by optimist (2011-03-12 15:12)
mimimomo様、旅爺さん様、今造ROWINGTEAM様、kurakichi様、月夜のうずのしゅげ様、takemovies様、ほりけん様、silverag様、carotte様、signaless様、もめてる様、さとふみ様、くらま様、flutist様、兎座様、mayasophia様、えれあ様、kakasisannpo様、青い鳥様、doudesyo様、glennmie様、yakko様、Goshu様、schintzer様、YUYA様、Mineosaurus様、ChinchikoPapa様、ナカムラ様、てんとうむし様、夢空様、海を渡る様、Enrique様、kohtyan様、SILENT様、イタリア職人の手作りタイル様、ねじまき鳥様、よっちゃん様、スマイル様、HAL様、りんこう様、sig様、gigipapa様、ryo1216様、、めぎ様、まぐろ様、サチ様、siroyagi2様、+k様、デザイン屋様、chiho様、にすけん様、ブラックホッピー様、toraneko-tora様、八犬伝様、水郷楽人様、orange-beco様、optimist様、扶侶夢様、miffy様、CountryBoy様 皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2011-03-14 18:33)
mimimomo様
小さい頃には、恐ろしいほどの空腹感を感じることがありましたが、最近は殆どありません。それは好いことなのか、とふと地震がきてから考えました。
月夜のうずのしゅげ様
さて、豆から芽がでますやら・・・
ご期待に沿えることやら分かりませぬ。
青い鳥様
地震があったものですから、ふざけた内容なもので、少しだけ自粛しております。
yakko様
地震のことが、随分と気になっております。
glennmie様
感情を理論よりも大切にすること、それは私の生き方の基本でもあります。
Enrique様
いろいろ考えて書いた結末ですので、お気に召すやら。一気に書き上げると、大体自分でも満足ゆく出来になるのですが・・・
月夜のうずのしゅげ様
雀の今様昔話、書き上げました。気が変わらなければ次回発表します。
にすけん様
一つのパターンが出来ると書くこと自体は楽になりますが、マンネリズムになることもありそうで、それも気になります。
Kanna様
有難うございます。新宿は結構揺れましたが、大丈夫でした。何よりも東北の人たち、その犠牲の多さ、被害の甚大さに驚き、一日も早く普通の生活に戻れることを祈るばかりです。(この普通の生活というものの有難さ・・・つくづくそれを思います。)
optimist様
仕事中だったので新宿におりました。ビルの8階というのは揺れます左右に大きく揺れ、物が落ち始めたとき、実は「いよいよ最期かもしれない」とちょっとだけ考えたりしました。
今日3/14は小田急線が経堂・新宿間しか運転していないので、結局は自宅待機状態でした。
人間は、未経験のことに対して、非常に弱く、先回りをすることはできないものなのだ、と痛感しました。
by アヨアン・イゴカー (2011-03-14 18:52)
庭にぶちまかれた種が気になりますね。
どうなるんだろう?
by youzi (2011-03-26 09:21)