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今様伊曾保物語 その3 [今様伊曾保物語]

 今日は、今様伊曾保物語のその3を公開。その2は、大体の物語は書き上げてあるが、挿絵がまだである。その3の挿絵は、今日3様描いたが、これが結構時間が掛かる。
2013127日(日)今様伊曾保物語 その3 兎と亀 

 この有名な話はこんな風に続きます。

 あの有名な走り比べ以来、随分長い時間が経ちました。亀の家では代々あの時勝利した祖先のことを「兎勝(うさぎがち)様」と言う名前で呼んで、尊敬していました。ですから、この亀の子孫達は、兎を見ると優越感に浸ることができるのでした。

DSCN2123.JPG 一方、兎の方では、三方ヶ原の戦いで命からがら逃げた徳川家康が描かせた顰像(しかみぞう)を後年の戒めとしたように、壁に「油断大敵」と「臥薪嘗胆」と言う掛け軸をぶら下げて、この恥じは雪がではおかじ、と子々孫々再挑戦の機会を窺っていました。

 或る日兎が軽快に山野を飛び跳ねていると、亀が本当にのろのろと歩いているのが目に入りました。そこでこの兎は歌いながら亀に言いました。「もしもし亀よ、亀さんよ。世界のうちでおまえほど、歩みののろい者はない。どうしてそんなにのろいのか。」

亀は答えます。「兎どん。おいらはおまえさんが、そりゃぁ速く走るのを知っていますよ。でもね、おいらのご先祖様は、兎どんのご先祖に勝ったんですよ。」

兎は唇を咬んでから言います。「だからさ、もう一度勝負しましょうよ。相手が昼寝してたから勝てたなんて、余りに悲しいじゃないですか。」

亀「そんなの、知りませんよう。でも、駆け比べすることについては、おいらは吝かではございませんよ。」

兎「ほう、いい度胸ですね。」

亀「但し、同じところから一緒に走り出したら、僕が負けるのは火を見るよりも明らかでしょう。そんな競争はフェアプレイ精神に反しますよね。だから、あの競争のたとえ話は、弱者を強者がいじめる嫌な話だ、と言って怒っている大人もいるくらいなんですよ。そんなアンフェアな競争をして勝っても、兎どんにとって、ちっとも名誉なことではないじゃないですか。」

兎「まぁね。(それでも俺は勝ちたい!)」

亀「そこで、提案ですが、僕が走るのは兎どんの走る距離の百分の一と言うのはどうでしょう。」

兎「百分の一?」兎はなんだか随分損をしたような顔をします。

亀「本とは、おいらはもっと遅いんだけど、二百分の一とかにしちゃうと、兎どん競争したくなくなっちゃうでしょ。」

兎「なるほど。」

と言うことで、再試合が行われることが決まりました。亀が住んでいる川の辺が出発点で、兎の散歩道である丘の上が終着地点であります。距離は百メートルで、まず亀が出発し、いよいよ最後の一メートルの地点、つまり九十九メートルに亀が到着した時、審判が旗を揚げます。公正を期するために、審判は双方の親族、関係者ではなく、蜥蜴どんに依頼しました。さて、どちらが先に駆け付くか。

位置について、用意 ドン!の号令が、河に住んでいる河童小僧によってなされます。亀は早速歩き始めます。ご存知のように亀は走ることができません。やはり、というよりも想像以上に遅い速度です。直ぐそこまで歩くのに、すっかりへばってしまっています。兎が声を掛けます。「おい!亀さん。もっと速く行ってくれよ。」実は、この牛歩戦術は亀が計算していたことでもあり、兎が亀の足の遅さにうんざりして眠ってしまうよDSCN2124.JPGうにして、今回も寝ている間に到着してやろうと言う魂胆だったのであります。案の定、兎はうつらうつらし始めます。しかしながら、今様兎は過去から学んでおりました。亀の歩行速度から九十八メートル地点の到着時刻を割り出し、目覚まし時計を掛けておいたのでした。

兎が舟を漕いでいるのを見ると、亀はしてやったりと言う顔をしております。亀はゆっくりと自分の歩調で歩きます。土台、亀は歩くのが苦手であり、好きでもありません。石の上などで日向ぼっこをしているのが大好きなのであります。それなのに、祖先がたまたま忍耐強かったために手に入れた兎に対する勝利、それが敵討ちという話にまで発展してしまったので、「なんだか迷惑だなぁ。」などと独り言を言っております。それに、丘の上までの道は平坦ではなく、石ころもあるのです。それを一つずつ乗り越えてゆくのです。わざとゆっくり歩いてゆく心算でしたが、これでは兎が充分な転寝をして目を覚ましてしまう、と焦り始めました。しかし、終着点はまだまだです。

DSCN2125.JPGやっと亀が九十九メートルに到着した時、兎は既に目を覚ましており、蜥蜴の手旗が揚がるのを今か今かと待ち受けていました。手旗が揚がるや否や、それこそ脱兎の勢いです。亀が四苦八苦して乗り越えた石なんか一ッ跳びで越え、みるみる丘を駆け上って行きます。

そして、亀が残りの五センチに前足を伸ばした時、兎の尻尾が、地面に引かれた線を跳び越えました。

こうして兎は亀に勝つことができましたが、喜びも本の一瞬でした。考えてみると、何だかちっとも嬉しくありません。「こんな競争に何の意味があるのか?」兎はまっしぐらに自分の穴へ帰ると、マカロンを食べたり自棄酒を飲んだりしました。

その後兎は『弱者に勝った強者の存在意義とは何か』と言う本を書きました、とさ。


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コメント 8

mimimomo

こんばんは^^
もともと勝って当たり前のものが勝っても威張れることじゃないですものね~
いいお話ですね^^
兎も気づいたってことですかね。
by mimimomo (2013-01-27 21:07) 

Enrique

亀に勝ったウサギは,木から落ちないサルとか,考えない葦とかと同様に,かなり存在意義が問われますね。哲学者になれるのかも知れませんが。
by Enrique (2013-01-28 20:29) 

楽葉

第二弾がすぐ出ましたね…面白く読みました
このシリーズを<大人の紙芝居>仕立てにしたら面白いと思いました
たくさん絵を描くのは大変でしょうが…
by 楽葉 (2013-01-29 09:55) 

yuyaさん

面白いですね。確かに考えてみれば、兎は勝っても負けても虚しいでしょうね。もし亀が勝利しても、毎度寝てかかる兎に勝って嬉しいものかと疑問に思ってしまいます。
弱者と強者の存在意義をも考えさせられました。
by yuyaさん (2013-01-29 13:08) 

Kanna

マカロン(笑)
昔話の続きと思い読んでいた所に、現代的な言葉や食べ物が出てきたので、ついつい油断して笑ってしまいました。
確かにそこがポイントなのでしょうけれど^^
お話、とても面白くてさくさく読んでしまいました。
挿絵も良いですね。
このお話、本になっても良いのじゃないかしらと思いましたよ。
by Kanna (2013-02-01 16:40) 

youzi

こんばんは♪ いつもありがとうございます。
絵本が大好きな私。
アヨアン・イゴカーさんの絵本がとっても欲しいです~。
by youzi (2013-02-02 19:42) 

アヨアン・イゴカー

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2013-02-03 23:44) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
負けて当たり前のことをやらされて、負けたことを非難されることも結構あるのではないでしょうか。根性や努力だけでは、何ともならないこともありますね。

Enrique様
頻繁に猿が木から落ちたり、亀が兎に勝ったりしたら、経験則に反することになります。それは見たくない場面です。そして、木から落ちた猿や亀に負けた兎の姿を見た時、人は瞑想的にならざるをえません。

楽葉様
コメント有難うございます。紙芝居と言うのも面白い考えですね。
確かに、もう少し枚数を増やさなければなりませんので、ちょっと難しいかもしれません。

yuya様
弱者には常に更なる弱者がおり、強者にも同様に更なる強者がいます。競い合うことは必要な時もありますが、それが人生の目標になることは空しいことですね。

Kanna様
絵本の原稿として、出版社に売り込みたいと考えています。
どうなることやら分かりませんが。

youzi様
コメント有難うございます。
私もこんなシリーズを絵本にしたいのです。
by アヨアン・イゴカー (2013-02-03 23:57) 

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