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今様伊曾保物語その4 [今様伊曾保物語]

201323日(日)

今様伊曾保物語その4 ライオンと狩りをすると DSCN2126.JPG

 怠惰なライオンは、あんまり何にもしないで寝てばかりいたものですからすっかり腹が減りました。そこで同じく腹の凹んだ犬と豹に声を掛けました。

「君たち、腹が減っているだろう。儂と一緒に狩りをしないかね?」

犬は言いました。「ライオンさんと一緒なら心強いです。僕は、とっても鼻が利きますから獲物を探して追いかける役目を引き受けます。」

「それはなかなかよい考えである。」とライオン。

続いて豹が言いました。「私は木登りが得意です。ですから、犬君が追ってきた獲物に、木の上から飛び掛って仕留めてみせましょう。」

「宜しい。なかなか君たちは頼りがいがある。結構、結構。ところで、儂は声も大きく顎力も強いので、獲物に咆えて気絶させ、止めをさす役目じゃ。」

 ということで話は纏まりました。早速、犬が獲物を追い込んでくる木を決めて、その木の上に豹が登りました。近くの草叢にライオンが潜みました。そして、犬は腹ペコの体に鞭打って獲物を探しに駆け出しました。

 DSCN2127.JPG犬が出発してから二日が経ちましたが、まだ獲物の姿は見えません。ライオンも豹も空いた腹を愈々凹ませて、苛々しながら待っています。もう夕日が地平線に近付いた頃、何かが走ってくる足音と犬の吠える声が聞こえてきました。ライオンと豹とは「よしっ!」と言って構えています。

 暫くして、トムソンガゼルが必死に走ってくるのが見えました。豹はガゼルが木の下に来るのを今か今かと待ち構えています。そろそろ木の下を通過しようとした時です。いきなりライオンが飛び出してガオーッ!と咆えました。ガゼルは気を失うどころか、突然方向を変えて走り始めました。慌てて豹も木から飛び降りてガゼルを追います。へとへとに疲れた犬も引き続きガゼルを追います。流石のガゼルも疲れ切っているところを更に豹に追われたものですから、とうとう掴まってしまいました。その間、ライオンはただ見ているだけです。

 倒れたガゼルに止めを刺そうと豹が歯を食いしばっていると、ライオンがやって来て「任せたまえ。」と言ってガブリと止めを刺しました。死ぬほど腹の減っている犬と豹は、早く狩の分け前が欲しくって、尻尾をふってライオンを見ています。ライオンは言いました。「両名の、今回の狩での働き、ご苦労であった。分け前は後程取らすことにするので、本日は一旦これで解散とする。」犬も豹も腹が立ったので、ライオンに食って掛かります。「今、分け前を一緒に分けましょう!」

DSCN2128.JPGライオンの目がきらりと光ります。「今、何と言った?」そしてもう一度物凄い声で怒鳴りました。「今、何と言った?」その声が余りに大きかったものですから、犬も豹も吃驚して声が喉に詰まってしまいます。「い、いえ、何も。」怒鳴り声が大きい者は、慾もそれに応じて大きいのです。ライオンは言いました。「宜しい。分かっておれば、今日は一旦帰って宜しい。分け前のことは明日決める。」

 翌日、二匹がライオンのところへ行くと、ガゼルの形がまるでなく、骨だけが少し残っていました。美味しいところは散散食べつくしたライオンが、満足そうに草叢に横になっています。二匹を見るとライオンが言います。「おお、狩での仕事、ご苦労であった。儂は度量が大きいので、諸君への分け前も大きい。さぁ、残った分を好きなだけ諸君で仲良く分け合って持ってゆきなさい。」

 苦労してガゼルを仕留めた二人でしたが、仲良く分け合うこともなく、少しでも相手より大きい方を取ろうとします。すばしっこい豹は少しだけ肉の多く付いている骨にかぶりつくと、直ぐに近くの木の上に登ってしまいました。犬は最後に残された小さな骨を大切そうに銜えて、走り去ってゆきました。もう横取りする者はいないのに。

 これがライオンと一緒に狩をした時の結末でした。ですが、こんなことで驚いたり怒ったりしてはいけません。世の中にはもっと酷いことが沢山あるのですから。


※今日の挿絵は、ほぼ鉛筆と水彩絵具のみ。気が向いたら後日、ボールペンの線を入れるかもしれない。


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コメント 7

mimimomo

おはようございます^^
世の中にはこう言うことはあると思いますが、わたくしは今日のお話は気に入らないわ。だって戌年だから。ワンちゃんはもっと利口だと思うのよ(^0^
by mimimomo (2013-02-04 06:43) 

青い鳥

おはようございます。
とても面白く読ませて頂きました。
最後の「こんなことで驚いたり怒ったりしてはいけません。世の中にはもっと酷いことが沢山あるのですから。」とのくだりがまさに「今様」であると共感出来ます。
by 青い鳥 (2013-02-04 10:06) 

Enrique

何とも考えさせられます。
強いものに寄り添っておこぼれを頂こうと思ってもわずかなもの。それでもまだ頂けただけマシ。敢てもっとひどい例を挙げない方が却って効果的ですね。
by Enrique (2013-02-04 22:01) 

楽葉サンタ

 ヴィルドラックの寓話『ライオンのめがね』に出てくるライオン王は
老化に苦しみましたが、最後まで王さまでした…

 このライオンはきっと老いぼれて取り巻きの雌ライオンにも
愛想尽かしをくったのでしょうね…
by 楽葉サンタ (2013-02-06 15:35) 

Kanna

なかなか切ないお話でした…。
最後のくだりでアヨアンさんがおっしゃられているように、世の中にはもっと納得のいかない理不尽な出来事って、きっとたくさんあるのですよね。
そう考えるとなんだか悲しいな…と思います。
そういう世の中でも上手く立ち回れる(ライオンのような)人が、世の中を上手く渡っていけるのかもしれませんね。
どうする事が幸せなのか、考えさせられるお話でした。
答えはなかなか簡単には出せませんけれど^^;
by Kanna (2013-02-10 15:10) 

アヨアン・イゴカー

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2013-02-10 22:50) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
申訳ございません。個人的には私は、これらの動物皆、好きなんです。何しろこれ、たとえ話なものですから。

青い鳥様
ここに書かれていることは、勿論私が職場などで今まで経験してきたことが盛り込まれています。ですから全て比喩です。これからの今様伊曾保物語も同様です。
具体的に説明すれば、犬はマーケティング担当者、豹は営業でしょうか。ライオンは勿論、部長、経営者、社長などです。いろんな場面に当てはまるのではないでしょうか?

Enrique様
チェーホフが言っているようです。如何にも日常茶飯事、当たり前のこととして書くほうが、感情を込めて書くよりも感情が強調されると。今回特にそれは意識していませんでしたが。

楽葉様
木馬座で上演したヴィルドラックの『ライオンのメガネ』のライオンは、もっと品がありましたね。
今様のライオンは、イエスマンが大好きです。取り巻き連中がいないと、自分の存在が希薄になります。そして、いつも咆えて他者を従わせようとしています。

Kanna様
情けないのですが、自己PRをする人間を能力があると勘違いする人々は結構多いのです。何でも自分でやったような顔をしていても、本当にその基礎を作った人の功績は、二番目以降にしか語られない傾向があるようです。自分を信じて生きることが、そういう悪循環から抜け出す方法だと思います。
by アヨアン・イゴカー (2013-02-10 23:04) 

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