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工房集作品展『生きるための表現』を見に行く [随想]

Aya Watanabe 2012-9-15.JPG 今日は、東ちづるさんがfacebookで紹介していた工房集作品展を見に、東京都美術館へ午後行って来た。【特別展】リニューアルオープン記念「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」が開催中、最終日が9月17日までなので、上野駅前から酷い混雑だった。私はフェルメールを見に行くのは目的ではないので、ずらりと並んだ人々を尻目に、遥かに空いている工房集作品展に行った。
 受付で名前と住所を記入し、作家の一覧と投票用紙を受け取る。「気に入った作家の名前を3人書いて下さい。一位と成った作家は工房集で個展を行います。」とのこと。こういうのは非常に好い企画だと思う。
 Yasuhiro Nishikawa 2012-9-15.JPG作家達はアウトサイダー・アーティストと呼ばれる人々であり、芸術の伝統的が訓練を受けていない。この無垢の部分が私にはとても共感できるのである。既に作り上げられた価値観から自由な感性の人々が、自分の気の向くままに作品を作るのである。ウィキペディアで確認したところ、フランス人画家ジャン・デュビュッフェが作ったArt Brut(生の芸術)をイギリス人ロジャー・カーディナルがoutsider artと言う英語に訳し替えたそうである。そして、このoutsider artは絵画や彫刻だけでなく、服飾、映像、文学、音楽などとしても現れる、また、ある種のインスタレーションや建築、造園などにも、とも書いてある。要は、正規の教育を受けていない芸術活動全般に適用される定義のようである。Kazuyoshi Tsuruoka 2012-9-15 No.2.JPG
 一枚目の写真は、渡邉あやさんの作品で、東さんが携帯の写真で紹介していた絵のシリーズである。この作家さんは飛行機のある風景を描いているのであるが、私がこれらの絵を見ていて思ったのは、非常に二次元的な絵画だと言うことである。西洋絵画の基本は如何に三次元を再現するか、画面と言う二次元の世界を克服するかにあると思うが、そのようなことは全く意に介していない。平面に好きなものの形を描き、それを色々な線で区切り、その線に囲まれた部分に好きな色を丹念に塗ってゆく、その作業の集大成が作品になっている。
 Kazuyoshi Tsuruoka 2012-9-15 No.3.JPG二枚目の写真は、西川泰弘と言う作家の作品である。電子顕微鏡で見たミトコンドリアのような形であるが、これは細部まで丁寧に描きこまれている。相当に時間が掛かるのではないかと思う。
 三枚目と四枚目の作品は、鶴岡一義さんの作品である。入り口から近い展示場所に置いてあったので、直ぐに私の目を惹いた。何と楽しい作品だろう。作家の紹介には「はじめはペンキで色を塗ったり、のこぎりで切ったり、それを張り付けたりしていた。その後、木のパーツにペンで丸を書くようになる。その何度も描き込んだ丸の色合いはカラフルで奥深く吸い込まれてしまうような錯覚に陥ってしまう。」と書いてある。近付いて見ると確かに丸が書かれていたりして、雑然とした印象があるのだが、一寸離れて見ると、とても楽しい気分になってしまう。架空の街の鳥瞰図のようにも、クレヨン王が治めている街の一部のようにも見える。Ryo Yokoyama 2012-9-15 No.2.JPG
 そして五枚目の写真は横山涼さんの作品である。作家紹介には「木で作った飛行機はなかなかない。最初は箱作りから始まり、今は飛行機へと変化していった。『稲妻』『龍』『魔の鋼』などタイトル通りダークで毒々しい作品が次々と生まれている」とある。この箱と飛行機の作品群にも私はすっかり魅了されてしまった。飛行機がなんだか生き物のように見えるのである。この写真に写っている銅板の張ってある飛行機は銅版ヒコーキ、その右側のものはボートヒコーキと言う名前が付いている。ボートヒコーキはその胴体の上に、2艘のボートが載っている。他にもスキーヒコーキ、ローズヒコーキ、トナカイヒコーキなどと言う名前がついている。スキーヒコーキは車輪の代わりにスキーが付いている。彼の作品は、何箇所かに展示してあったが、一つの壁の一面に飛行機ばかりが展示されていて、圧巻だった。
 残念ながら、途中でデジタルカメラのバッテリーがなくなって撮影できなくなってしまったため、7枚ほど撮っておしまいになってしまった。(撮影は許可されている)
 写真にないが、書道の作品もあり、これも味があった。「リストラ」とか「ブサイク」など、半紙に書かれている言葉がちょっと悲しいが、作品としては好かった。
 私は、自分にも共通する部分があると感じている為だろうが、Art Brutは好きである。飽きることない執拗さ、それが芸術の根源的な力なのだろうと、漠然と思っている。明日まで開催。
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コメント 7

glennmie

とてもおもしろいですね。
非常に興味深く拝見しました。
最近いやなニュースばかりですが、こんな世界に触れると「人間」も捨てたものじゃないな、と思います。
アヨアンさんの仰る「飽きることのない執拗さ」という言葉にもハッとさせられました。
良い刺激をいただきました。ありがとうございます。
by glennmie (2012-09-16 00:40) 

Kanna

これはまた面白い展示会に行かれましたね。
そしてアウトサイダーアート良いですね!
個人的には、誰もが知る有名画家の作品よりも、こうした掘り出し物のような、宝石になる前の原石のような、そんなアートが好きです^^
私もどちらかというと中途半端な教育しか受けていないので、そうした方々や作品には親近感も湧きますし(笑)
こちらの作品の中では、鶴岡氏の2枚目の作品が好きです^^
木の表面に無意味な丸丸丸…、なんでしょうねこれは^^
とても面白いなと思いました^^
by Kanna (2012-09-16 13:23) 

zenjimaru

アヨアン・イゴカーさんが著名でない作品でも評価出来る能力を持たれていて、芸術に長けているのが分かります。このような作品に興味を持ち、面白いと思う感性はやはり凄いと思います。
一般の人間には、いや自分には作品の良し悪しが、まず分かりません。
それで有名で評判の高い絵画展などを観に行き、これが一流の作品なのかと納得しています。
絵画は好きですが、なにせ素人ですから悲しいかな審美眼がない・・
by zenjimaru (2012-09-16 17:10) 

Enrique

>芸術の伝統的訓練を受けていない
そこが面白いところなのでしょうね。伝統的訓練を受けたにしろ,最終的には独自性を発揮しないと芸術作品にならないでしょう。むしろ,訓練受けていない人は独自性のみでしょうから。
学校時代の美術の時間,図案的な作品を書く課題で,敢て斜めから見た鉛筆の端を六角形で芯をまん丸に描いたら,美術教師から「斜めから見たら楕円に見えるはずだ」と直されて,すっかり意欲が萎えてしまったのを思い出しました。
by Enrique (2012-09-19 08:49) 

楽葉サンタ

 紹介された5葉の写真の中では渡邉あやの
モザイクに惹かれました…
極彩色のゾウが活躍する<ぞうのエルマー>
のような色遣い…それでいて色のコントロールが
効いている…
こうした表現は自分にできないだけにうらやましくなります

 イゴカーさんの丁寧なレポートが効果的ですね
by 楽葉サンタ (2012-09-20 11:46) 

アヨアン・イゴカー

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2012-09-23 15:09) 

アヨアン・イゴカー

glennmie様
人間にはいい部分も沢山あると思いますし、そう信じて生きてゆきたいと思っています。が、往々にして経済力や権力のある人々は、欲が深く醜く見えます。
妻とも話しておりますが、一定の年齢になると、後は執拗さだけが人生を左右するのではないかと言う考えになってきています。

Kanna様
面白いでしょう、こういうのって。既成の価値観に囚われていないように見えて。もしかすると、最低限の技術的な指導する人がいるのかもしれませんが、知り合いがいるわけでもなく、分かりません。
鶴岡さんの作品、面白いですね。同じ種類のものを並べてゆくと、特定の意味が生まれてきたりしますが、無作為にそれをやっていても、実は作家自身の心を反映したりしますね。

zenjimaru様
万物、究極、好きか嫌いか。それを自分の考えとして言うかどうか、それだけだと思います。どんなに高価な絵でも、嫌いだったら自分にとっては価値がありません。そういう面白いと思わない作品はこの世の中に沢山あります。

Enrique様
>美術教師から「斜めから見たら楕円に見えるはずだ」と直されて,すっかり意欲が萎えてしまったのを
これな悲しい体験をされているのですね。
私などは、小学校6年生の頃、「ピカソだ!」と言いながら、図画工作の授業の前に水彩絵具を塗りたくっていたら、福島太郎先生が面白そうに覗き込んでいました。そして、水田で耕運機を使う農家の人を描いていたら、夏の暑さを表現したいのだったら稲を赤で塗ってもいいんだよ、とも。或いは、ミロのビーナス頭部の石膏デッサンをした時、私のものは描きこみすぎて真っ黒になってしまったのに、面白いと言って皆に見せたりしてくださいました。

楽葉サンタ様
渡邉さんの絵、デザイン的で美しいですね。見ていると、色を塗っている時の楽しそうな気分が伝わってきて、愉快になりました。
今回は、デジカメのバッテリーが切れて、他の作品を紹介することができず残念でしたが、この四人の作品が一番気に入ったので、セーフでした。
by アヨアン・イゴカー (2012-09-23 15:29) 

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