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『空飛ぶバイダルカ』 短編小説 [短編小説]

2010419日 月曜日 『空飛ぶバイダルカ-続き』 

暫く沈黙した後、バイダルカ野郎はさも自慢そうに続けた。「浮石を採取に行く時が結構大変だったんだ。浮石にはその生成が途中のものもある訳だ。石の生成だから厖大な時間が掛かると思うだろうが、浮石は毬藻と同じくらいで適当な大きさに出来上がるのさ。せいぜい千年単位、或いは数百年単位の場合もある。成熟していないものは当然ながら、浮力が十分で無いので、地面に転がっているわけだけれども、それでも重さが感じられないので、小さいものであればちょっと蹴飛ばしただけでも、それこそサッカーボールのように飛んで行ってしまう。地面にある浮石も、宙に浮いている奴も、天井にへばりついているのも、どれも魅力的だ。あらゆる用途が考えられるからね。勿論、オブジェとしてもいい。

a plan for a flying baidarka 2010-5-4.JPGと言っても、アリババの兄貴のように欲張りすぎてもいけないからね。俺は採取に出かける前にあれこれ考えた。先ずは、浮石の存在が確認できたので、仮の設計図を描くことにした。そうしなければどれだけの分量を採取すればよいか分からないからね。バイダルカの自重と俺の体重、食料、防寒具、寝具など一切の重さを量る。それと同じだけの浮力を持つ数の浮石を集めるためだ。概算であるが、150キロ分の浮石を集めることにした。

鍾乳洞へは軽トラックで行った。幾つもの木箱を用意してね。この木箱には頑丈な蓋を取り付けておいた。この木箱の蓋には合計8箇所に鎖がついていると言う特殊な構造のものだ。夫々には採取する浮石の重量の重りが入っているから、結構重量はある。それとターポリンの防水シート。大工道具一式も。

人目を避けるために、夜中に鍾乳洞へ行くわけだから、実に怪しい限りさ。カンテラで洞窟の中を照らして、浮石を選び始めた。バイダルカの設計図に基づいて、浮力が前後左右対称になるように、偶数個選ぶ訳だ。これは大仕事だった。予めバネばかりを二つ用意して来た。それと厚地の木綿布に二箇所輪をつけたものも。これは、形は言ってみれば、マスクのような形の物だ。天井にへばり付いている浮石にこの布を鞍のように石に掛け、両側からたれている輪を一箇所にまとめて、そこにバネばかりの鉤をつける。そして、下に引っ張って浮力を調べるのさ。一つの石で3キロから5キロの浮力があるものを揃えることにした。それだけで、30から50個の石を量って探しださなければならない。これはと思う候補があると、その浮石にマジックで番号と浮力を書いてゆく。これはと思う石を探し出すだけで、数時間掛かってしまった。 

それが済んだら、今度は梱包だ。木箱入れるのだが、これがまた大仕事だった。喩えてみれば、水中で大きな空気の塊を容器にいれるような感じさ。バネばかりで大体3キロや5キロくらいの大きさの浮石を見つけると、木箱の蓋の下に入れる。そうすると蓋が持ち上げられる。この時に例の鎖が役に立つのだ。蓋だけが上に持ち上げられないように、重りの入った箱で繋ぎとめてくれるわけだ。

石が、箱の重さ分だけ入ると、俺は蓋を閉じるのだが、これも四隅についている鍵を掛けるまでは油断なら無い。先ず、俺が蓋に乗って、蓋を箱の縁まで沈めるのさ。そして、鍵をしっかりと掛ける。掛けてしまえばこっちのものさ。箱は、殆ど重さを感じない。

こんな風にして、俺は箱を五箱荷造りした。そして、軽トラックの荷台に運び、積んだ。後は、防水シートをかけて、荷崩れしないようにしっかりと固定さ。来る時には荷台には150キロの荷物が載っていたが、浮石をいれた箱は重さがないので、空で走っているようなものだから、軽快だったね。

flying baidarka 2010-5-4.JPG家に帰って来たらもうすっかり次の日の昼過ぎさ。俺は早速、荷物を降ろして、作業場に持ってゆく。そう言えば、食事をするのもすっかり忘れていた。荷物の移動が全て終わった時、もう夕方だったね、突然恐ろしい空腹感に襲われ、コンビに行って、握り飯を10個、それとインスタントラーメンを5つ、アンパンを2つ、ジャムパンを2つ、ジャガイモサラダを一つ、アイスクリーム3つ、バナナを一房、オレンジ5つ買ってきてすっかり平らげた。この位じゃ、本当の意味の空腹からは解放されないのだけれどな。」誰かが「食べすぎでしょう?!」と言った。「何を言ってるんだぁ。体が、仕事が食べるのであって、俺の肉体が食べているわけじゃない。本当は、もっと食いたかった位だ。」

 

すっかり疲れ切ってしまったので、眠った。よく眠ったね。翌日起きてから、作業を始めたのだが。

空飛ぶバイダルカの製作には、時間が掛かったよ。半年も。設計図を少しずつ手直ししながら、作ってゆくのさ。カタマランではなくアウトリガー型さ。やはり、バイダルカだけで平衡を保つ自信が俺にはなかったから。俺はあんまり運動神経が好い方ではないからね。ぱっと見には自転車の補助輪みたいで恰好は必ずしも好くないかもしれないが、安全第一さ。操縦のしやすさ優先さ。

バイダルカの底部やアウトリガーに浮石を取り付けると、バイダルカが少しずつ浮くんだ、当たり前だが。バイダルカに乗って作業していると、何だか水に浮かんだ小船みたいな感覚がするのさ。にも拘らず、水は全くなく、透明な空気の上に浮いているんだよ。ハンモックのようでもあるね。皆、それぞれの飛行法を確立しているので、自分のものが最高と思うだろうが、やっぱり俺にとっては、このバイダルカが最高だぜ。

俺は馬を繋ぐように、バイダルカに重りの付いた紐を付けておく。完成の暁には、必需品を積み込むので、重りは不用になる計算だ。」(2010年5月4日火曜日)


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コメント 10

mimimomo

おはようございます^^
ちょっと怖くて乗る気はしませんが^^
夢がありますね~~~
by mimimomo (2010-05-05 08:00) 

雉虎堂

石が大きいと浮力が大きい(^^ゞ
読んでいると重力方向が
あいまいになっていくようで
ふわふわします(*^_^*)
by 雉虎堂 (2010-05-05 15:05) 

にすけん

 こないだ幸運にも熱気球に乗せてもらう機会に恵まれました。乗員交替する時、先に次の人が乗ってから前の人が降りないと、先にひとり降りてしまうと気球が浮いてサヨウナラ(笑)
 錘の絵がそのイメージによく合います。
by にすけん (2010-05-08 13:18) 

SAKANAKANE

「150キロ分」に、?と思ったら、マイナスだったんですね。
ディテールの描写も良いですね。
バイダルカでの冒険が、楽しみです♪
by SAKANAKANE (2010-05-08 18:44) 

アヨアン・イゴカー

Mineosaurus様、yakko様、moz様、よっちゃん様、kurakichi様、nyankome様、kaoru様、shin様、mimimomo様、もめてる様、くーぷらん様、schnitzer様、flutist様、りぼん様、ぽちょむきん様、雉虎堂様、えれあ様、アリスとテレス様、matcha様、青い鳥様、optimist様、ゆきねこ様、orange-beco様、ChinchikoPapa様、pace様、doudesyo様、アマデウス様、サチ様、musemisty様、チョコシナモン様、旅爺さん様、kakasisannpo様、takechan様、リュカ様、ひろきん様、dorobouhige様、にすけん様、SAKANAKANE様、ミモザ様、toraneko-tora様 皆様 nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-09 15:32) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
ボートに乗るのと同じなのですよ。恐くないですよ~っ!多分。

雉虎堂様
大きいと浮力も大きくなりますので、扱いが難しいのです。引力に逆らって上昇してゆきますので、作業は大変だったようです。

にすけん様
熱気球、乗られたのですか。いいですね。ああいうのは憧れです。

SAKANAKANE様
バイダルカの冒険?この言葉で、ちょっとひらめいてしまいました。
よーし、書いてみようっと。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-09 15:39) 

sig

こんばんは。
設計図も付いていて、それがまたどこかダ・ビンチ風で、楽しいですね。
熱気球には乗ったことがありますが、あれはバルーン内部の空気を暖めて浮上し、下降は空気を上部から放出。移動は行きたい方角に吹いている風の流れを読んで、それに乗るんですね。
浮石で飛行するのも快適そうですね。
by sig (2010-05-11 00:48) 

すうちい

“浮遊”ってあこがれますよね。
高度調整用に小っちゃいのもお持ちになれば?
by すうちい (2010-05-11 10:02) 

duke

ファンタジーの中に、「コンビニ」という現実がミックスされていて、すごく素敵な世界観です^^ 乗ってみたい♪
by duke (2010-05-15 17:18) 

アヨアン・イゴカー

sak様、MANTA様、さとふみ様、sig様、chee様、くらま様、nachic様、すうちい様、ソレイユ様、ばん様、YUYA様、あれんに様、兎座様、tacit_tacet様、utu_mamoru様、今造ROWINGTEAM様、duke様、いっぷく様、Enrique様 皆様 nice有難うございます。

sig様
熱気球、乗られたのですね。好いですね。どうも、風任せの生活も、なかなか愉快そうです。

すうちい様
小さな浮石は、ご指摘のように、消耗品として必需品です。再利用できる方法が考えられればいいのですが、勉強不足で、ちょっと思いつきませんでした。

duke様
夢は曠野を駆け巡ると言う奴です。空中散歩は楽しいですよ。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-16 13:38) 

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