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空飛ぶバイダルカ 続き [短編小説]

2010515日(土)空飛ぶバイダルカ 続き  バイダルカ野郎は彼のご自慢のバイダルカの構造について、語り続けた。誰かが聞いた。「上がるのは、上昇してゆくのはまだ好いとして、地上に降りてくるのはどういう仕組みなんです?」バイダルカは残念そうに言った。「俺は基本的に、物を消費だけするのは気が向かないんだ。皆、ご存知と思うが。使い切ったら何も残らないものには、未来が見えないからさ。再利用、再生できないものは、基本的には使わない主義さ。まぁ、しかし、この飛行バイダルカは、どうにもしようが無い。残念だが。俺は、浮石の小石をいくつも持っているんだ。これも、浮揚のための力として利用しているのだ。上昇する時にはバイダルカの両脇についているバラストタンクの水を少しずつ抜いてゆけば、バイダルカは浮かんでゆくのさ。反対に下降する時には、浮遊力として使っていた小石を開放してやるのさ。あぁ、もったいない!そうすれば、自由になった浮石はどんどん上昇してゆく。勿論、一定の高度に到達した段階で静止するのではあるが。反対に揚力の減少したバイダルカは重さを持ち、下降し始めるのだ。すべて、非常にゆっくりとした速度で行う。そうしなければ、墜落の危険もあるので、この俺だって、基本的にはかなり慎重にやるわけさ。」私は尋ねる。「その機動性の低さは、かなり、熱気球に近いものがありますね。」「いいや、何を仰る!熱気球と一緒にしてもらっては困る。あんな風に、ただ空中に浮いているのとは訳が違う。遥かに機動力があるのさ。」「でも、風の方向や、風力、天候などに大きく左右されるでしょう?」と私。「勿論、影響を受けぬはずがないではないか。大切なのは、それを上回る操縦性の有無さ。俺のバイダルカにはそれがあるのさ。」会長が悪戯っぽく言う。「機動力って、それ、プロペラを使うんじゃないのですか?」「プロペラ?!」とまるで馬鹿にしたようにバイダルカは言う。「プロペラ?そりゃぁ、便利でしょうよ。合理的だし、現実的だし。俺だって、困ったら使っちゃうだろうね。しかしながら、俺は、基本的には、どれだけ自分が原始的でありうるのか試すのが好きなのよ。原始性、自立、独立に拘泥する訳ね。」「中途半端な原始性ですね。縄文時代の生活体験みたいに。」と誰かが茶茶をいれる。「人間ってぇ生き物はさ、妥協しながら生きる生き物なのよ。」と甚だ口惜しそうにして、顔を顰めている。「でもね、この俺も、結構研究した訳だ。熱気球や気球から脱却できるような、バイダルカを目指してね。俺のバイダルカは、飛行船くらいの操縦性、機動力はあると思うぜ。この特殊な櫂を使うわけだが。これにはかなりの訓練が必要なんだ。世の中には、道具を作る人と、それを使う人間とがいる訳だが、俺なんかは、道具は使う側の人間のような気がするね。」unidentified hot air balloon.JPG会長「で、高度はどの位までに達したことがあるんです?」「嬉しい質問ですね。熱気球は、俺の知る限り、現在2万メートル以上の高度に達しているそうだけれど、俺のバイダルカは千メートル位。高度計は一応持っていますぜ。まあ、俺の場合、高度ではなく、どれだけ素早く移動できるか、高度を変えられるかが大事な訳だけれども。俺は、通算で百時間以上は操縦のための訓練をしたのではないかな。面白い体験があるんだけれど、ある日、海岸に近い場所で飛行練習をしていたら、海抜八百メートルほどのところに、面白い形の熱気球が浮いていたんだ。丸っこい魚の形をした奴で、ゴンドラも球皮に囲まれていて、その形が魚なんだ。あだかも、金属で作られた魚、こういうのを金魚と言ってもいいのかも知れないけれど。丸窓の周りには文字が書いてあるんだ、ローマ字でKANESAKANAってね。近付いて見ると、丸窓から水中眼鏡を掛けた男が、俺の方を向いて手を振っているではないか。ゴンドラの中でアクアラングに水中眼鏡だよ。誰じゃろう、と思った。が、直ぐに思い出した。スキューバダイビングをして、面白い魚や甲殻類などの記事を書いている人物だった。俺も、元気に手を振ったさ。こういう場所での出会いは、特別の感情を喚起せずにはおかんね。仮令相手が、婆さんだったとしても、俺は恋してしまいそうに嬉しいね。生きるもののいない宇宙空間で触覚を動かしてかさこそ動くゴキブリに出会ったくらい、嬉しいかもしれないな。幸いに、向こうは男だったので、俺も浮気せずに済んだ。そんなことになった日には、地上では熱気球のバーナーのようにカミさんが妬いてくれるだろう。人間至る処青山あり、マドロスは世界の港に花嫁あり、そして空飛ぶバイダルカ野郎には、世界の空に恋人ありってか?」kanesakana-maru.JPG「あれっ?!独身じゃぁなかったっけ?」と誰かが言う。「妬いてくれる恋女房の欲しきかな。」とバイダルカ野郎。
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コメント 7

mimimomo

おはようございます^^
夢がありますね~ わたくしも一緒に空を飛んでるような気分になります。
飛行船や熱気球乗ってみたいです^^
by mimimomo (2010-05-16 07:10) 

sig

こんにちは。
親子さかなの絵がとてもかわいいです。
KANESAKANAの浮遊力と移動方式はどうなっているんでしょうね。
きっと船の仕組みが取り入れられているんでしょうね。
by sig (2010-05-16 09:16) 

アヨアン・イゴカー

いっぷく様、shin様、甘党大王様、Mineosaurus様、チョコシナモン様、flutist様、chee様、kurakichi様、kaoru様、旅爺さん様、SORI様、mimimomo様、さとふみ様、dorobouhige様、sig様、sak様、olive様、nyankome様、Enrique様、matcha様、HAL様、rebecca様、りぼん様、青い鳥様、アリスとテレス様、miffy様、悠実様、takechan様、よっちゃん様、ChinchikoPapa様、ひろきん様、スー様、SILENT様
皆様 nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-18 00:01) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
飛行船、乗ってみたいですね。東京の上空を飛んでいるのを見ると、ツェッペリン号のことを考えてしまいます。私にとって飛行船は飛行機よりも遥かに夢があります。

sig様
この魚の形をした気球を妻に見せたら、「可愛いけど、なんだかちょっと在り来たり。でもいいんじゃない。」と私の心をそのまま見透かされたので、さすがと思いました。でも、私も可愛らしく描けたから、ブログに載せちゃうことにしたのです。
このKANESAKANA号は熱気球なのです。実を言うと、ゴンドラの部分(子供の魚)が気球の部分に比べて大きすぎるのですが、この部分にも熱が入っているということにして頂ければと思います。殆ど風任せであります。風向きによって高度を調整して方向転換したりしているはずです。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-18 00:09) 

アヨアン・イゴカー

tacit_tacet様、ミモザ様、アマデウス様、 kakasisannpo様
nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-22 17:03) 

duke

はははは^▽^ なんか小気味良いですね!!会話とオチも楽しいです^^ 「どれだけ自分が原始的でありうるのか試すのが好きなのよ。」こういう人、好きです~! だいたい文明は発達するほど、仕組みを知らないまま享受して生きていて、だからきっと自然とのバランスが崩れるんですよね。話題ずれてすみません。
by duke (2010-05-23 11:31) 

アヨアン・イゴカー

duke様 nice有難うございます。
ご意見、全く同感です。主に西欧文明的人間は自然に対峙して、如何に自然を征服するか、利用するかばかり考えてきたように思います。管理すると言う考え方です。しかし、気づいてみたら、管理していたのは人間の個性、考え方、生き方であって、自然や宇宙ではなかった。そんな気が最近しています。
我々は他の生物同様、宇宙の片隅に置いていただいているにすぎない、私はそう考えています。
by アヨアン・イゴカー (2010-05-23 12:58) 

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