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小説 『飛行倶楽部 空飛ぶバイダルカ』  [短編小説]

2010328日(日曜日)&44火(日曜日)

空飛ぶバイダルカ

 飛行倶楽部の会員の飛行方法には、既に述べたように種々の方法がある。アラビアンナイトに出てくる空飛ぶ絨毯、空飛ぶ木馬などは勿論かなり立派で優れた乗り物であることは議論を待たない。残念ならが、我々の飛行倶楽部には空飛ぶ木馬を持っている人物はいない。空飛ぶ絨毯を持っている男はいるが、彼が自慢の絨毯を披露してくれた時、会員の多くは失望してしまった。絨毯の柄が、あのペルシャ絨毯のような美しいものではなく、安っぽかったのと、毛がかなりぼろぼろになっていて、年取った犬の毛のようだったからである。それでも彼が胡坐をかいて愛用の絨毯に乗ると、ふわりと浮き上がり、念ずると前後左右、上下斜め左右、自由自在にゆっくりと動いてくれる。何か火急の時の役に立つような動きはできなそうだったけれども。

 ところで、飛行倶楽部には、会合があると必ず顔をだすバイダルカ野郎と言う男がいる。彼は立派な体躯をした男で、普段からも筋肉は鍛えているようだった。彼が自分が如何にしてその空飛ぶバイダルカを作ったのかをある日話してくれたことがある。

 

 「俺はさぁ、前にも話したかもしれないが、冒険が大好きさ。それと子供の頃から空飛ぶ夢をずっと持っていた訳。そりゃぁみんなと同じだね。

 みんなも知ってると思うけど、例の本に浮遊石、飛び石のことが書いてあるじゃない。それがどこにあるか、俺探したよ。あちこちね。洞窟写真家と言うのを職業にしているから、その特権を生かして、あちこち行って来たさぁ。鍾乳洞や古墳らしきものの羨道、旧陸軍の作ったトーチカだとか秘密の地下通路だとか、工事の半ばで中止された地下鉄らしきもののあと、とか、本当にあちこち行っては写真に撮ってくるんだ。

 あれは9年前の秋だったが、例の浮遊石がある可能性がと書いてある高い白神山地にある洞窟の写真を撮っている時のことでした。面白い形の石筍があるので、どんどん奥へ入っていったんですよ。不思議の国のアリスよろしく、俺も突然、足元を掬われたような感じがして、結構深い穴を転がり落ちてしまったんです。アリスのように優雅に、お気楽に落下なんて、現実問題できないもんですな。

どうやら暫く気を失っていたようです。辺りが真っ暗で、何も見えませんから、蝋燭とマッチを取り出しました。懐中電灯は落下の際に、どこかへ飛んで行ってしまったようで、手探りしましたが、近くにないようでしたから。まさかのために常備している蝋燭とマッチが役に立つんですな、これが。

flying baidarke 2.JPGマッチで蝋燭に火をつけて、俺は驚いたね。目を疑った。石が目の前に、いくつも浮いているんだから。手を伸ばして、触ってみたけれど、やっぱり硬くて石に違いないんだ。でも、浮いている。浮沈子のように、何もしなければ空中に静止しているものもある。軽く指で押してみると、ゆっくり上昇する。かなり浮揚力が強くなっていて、鍾乳洞の天井にへばりついているものも無数にある。凸凹した床にある浮遊石も、殆ど垂直方向への重さを感じない。横に押すとしっかりと抵抗感があるのだけれど。ちょっと指で触ると、ゆっくりと移動してゆく。水中で丸太を押すような感覚というのだろうか。

この洞窟の知られざる場所を発見した俺は、ツタンカーメンの王墓を発掘したハワード・カーターのように狂喜したさ。落下した時の痛みなんかまるで忘れてね。俺が長年探していた浮遊石がこんなに沢山あったのだから。

この時は写真機以外には何も持って来ていなかったので、俺は自分の発見が夢に過ぎなかったと言うことがないように、確認のために上着のポケットに出来るだけ沢山の小さな浮遊石を詰め込んだ。そして、落ちた洞窟内の崖を慎重に登って行った。勿論、この場所が分かるように、しっかりと自分だけに分かるように目印をつけてね。

洞窟の外に出て、町に行くと、皆が俺のことをじろじろ見るのさ。どうしたのかと思ったら、あちこちから血が出ていた訳さ。傷だらけになっているのに、自分では全く気づかないのね、こんな時。『いえ、なに。洞窟の中に落とし穴ような穴があって、そこに落っこちてしまいましたよ。危険ですから、分からない場所には入っていかないようにしますよ、今後は。』などと言って、誤魔化しておいた。」


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コメント 9

にすけん

 ジャズ・フュージョン系ドラマーBilly Cobhamの"Magic"というアルバムを、つい連想してしまいました。
by にすけん (2010-04-04 23:09) 

ナカムラ

反重力の洞窟なんですね。身をまかせたらだれでも飛べそうな気がします。
by ナカムラ (2010-04-05 01:55) 

yakko

お早うございます。
バイダルカ野郎さんは不思議な面白い体験をなさったんですね〜(¨;)
by yakko (2010-04-05 06:14) 

sig

こんにちは。
お話も奇想天外で面白いけど、絵がとても気に入りました。
by sig (2010-04-05 10:09) 

duke

浮遊石!ポケットから逃げて行きやしないか心配です!
by duke (2010-04-10 19:09) 

アヨアン・イゴカー

kaoru様、kurakichi様、よっちゃん様、Krause様、flutist様、アリスとテレス様、ゆきねこ様、リュカ様、doudesyo様、Chinchiko-Papa様、雉虎堂様、えれあ様、もめてる様、mitu様、SILENT様、ひろきん様、Mineosaurus様、nyankome様、さとふみ様、にすけん様、HAL様、ナカムラ様、shin様、yakko様、旅爺さん、アマデウス様、ミモザ様、sig様、sak様、くらま様、kakasisannpo様、thisisajin様、兎座様、mouse1948様、むく様、くーぷらん様、chee様、マロン様、mimimomo様、kazn様、schnitzer様、チョコシナモン様、optimist様、りぼん様、yoku様、青い鳥様、ぼんぼちぼちぼち様、イリス様、siroyagi2様、moz様、YUYA様、奥津軽様、toraneko-tora様、duke様 皆様 nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2010-04-11 20:43) 

アヨアン・イゴカー

にすけん様
コメント有難うございます。早速youtubeでBilly Cobhamを探してみました。Magicが見当たらず、Mirageしかありませんでした。それでもどのようなドラマーかは漠然と分かりました。

ナカムラ様
実は、反重力と言うことを考えていたわけではありません。この辺の詰めが非常にいい加減なのです。この浮遊石は、バイダルカ野郎が後日持って帰ることになるのですが、次回ぐらいのブログで書くつもりです。

yakko様
そうなんです。この男性は犬のような性格で、あちこち歩き回るのが大好きなのです。やはり、あちこち変化を求めていると、何か発見があるものですね。

sig様
今回の絵は、鍾乳洞の写真などを見たりしないで、想像だけで描いてしまいました。本当は、早く白鳥の群れと飛んでいる場面に移りたいのですが、小説である以上、この場面も飛ばすわけいには参りません。

duke様
ポッケに入れる場合には、ちゃんとボタン付きのポケットにして下さい。
大きな布製の袋に沢山つめておくと、メアリーポピンズの傘みたいに、袋が浮き上がりますから、それに掴まって上空に参りましょう。Bon voyage!

by アヨアン・イゴカー (2010-04-11 21:00) 

SAKANAKANE

とってもステキな話しですね~!
続きが早く読みたいです♪
by SAKANAKANE (2010-04-17 14:57) 

アヨアン・イゴカー

SAKANAKANE様
浮遊石を持って帰って来て、それで空飛ぶバイダルカを作るのですが、挿絵が少し頓挫しております。
続きが読みたいだなんて、仰ってくれちゃったりしたら、卒倒物です。
by アヨアン・イゴカー (2010-04-18 15:33) 

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