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短編小説『栗の里の愉快な女房 ムカデ騒動』 [栗の里の愉快な女房]

栗の里の愉快な女房 ムカデ騒動  2009/11/29 日曜日

 

 我が家には、夏になるとムカデが出没する。元々赤土で、粘土質の場所であり、そこにはムカデが沢山棲んでいた。その場所に家を建てたのだから、ムカデたちの歓迎を受けるのは当然であろう。私達夫婦は二人ともムカデに刺されたことがある。ムカデに刺されると酷く痛いし腫れる。数日以上痛みが続く。だから私も夏になると寝具の中にムカデがいないか確認するようにしている。また、かさかさ言う足音がした時は、ゴキブリかムカデなので、耳を澄ましちゃんと確かめるようにしている。

 

 ムカデは番いで行動するとか、攻撃性が強いとか、肉食だとか、差されると恐ろしく痛いらしい、とか、いい話は聞いたことが無い。藤原秀郷の大百足退治の話や、大国主神が須佐能男命の娘須勢理毘売に会い妻とする時の蜂と百足の室の試練を思い出す。何故、昔から私は百足が嫌いで恐いのだろう、と考えてみると、やはり恐いものとしてしっかりと擦り込まれてきたからだと思う。蜂、特にスズメバチなども危険だからちょっかいを出さないようにと教えられてきた。北海道にいた時には百足は見たことがなかったので、川崎市に来て、粘土質のところから出てきた脚の多い生き物を生まれて初めて見て、ぞくぞくっとした。それでも私は父に教えをられたように、虫は矢鱈には殺さないように気をつけている。蛾でもガガンボでも無闇には殺さない。無駄な殺生が嫌いなのだろうと思う。

 

 結婚してからの話である。栗の里の愉快な女房がまだ若く二十代の頃のことである。ある晩、ムカデが我が家に出現した。妻は大騒ぎである。掃除機を持ってこようか、蝿は滝がいいかな、などとじっとしていない。私は別段大騒ぎもせず、そうは言っても刺されるといけないので、割り箸でムカデを挟み取る。ムカデが割り箸に噛み付くのが分かる。そして、割り箸を伝って手の方に這い上がってくる。箸を放り出す。もう一回やり直す。そして、今度はしっかりと捕まえて、外へ放り投げる。しかし、それだけのことである。彼女が言う。「どうして、殺さないの?」「だって、この家は元々ムカデの居るところに建てたから、彼等の方が先住民だからさ。」

 ちなみに、女房の実家では、ムカデが出た夜にはこんな風な騒動になったらしい。夜十二時過ぎに床を這い回っているムカデを彼女の弟が見つけた。二人が、「刺されるといけない」、とか、「わーっ!」とか大騒ぎしていると、母親が出てきてまぁ、大変、お父さんを呼んできましょう、と言うことになった。父親は寝ようとしていたところだったが、「これは大変だ。刺されたら、それこそ一大事だ。好く見えるように家中の明かりを点けなさい。電気掃除機を持って来なさい。」と指示をする。弟が掃除機を取りに行っている内にもムカデはアンテナをふらふらさせて動き回っている。それを見ながら三人の大人が退いたり前進したりして、遠巻きに、しかし、逃がさないように真剣に見張っている。

 掃除機を持って来た弟は早速ホースをつけてスイッチを入れ、ムカデを吸い込もうとするが、すんなり吸い込まれてくれない。三分の一ほど吸い込まれるが、自力で這い出してくる。息子は焦ってホースを放す。きゃーっ!家族全員が叫ぶ。「こら、ちゃんと吸い込みなさい!」と父親が息子に活を入れる。何とか吸い込んで一件落着と思っていると、父親が「そうだ、吸い込んでもまた這い出してくるといけない。掃除機のゴミ袋をビニール袋に入れておかねば。」と言う。息子はビニール袋を取ってきて、ムカデの入っているゴミ袋をいれ、入り口を入念に縛る。すると母親が「あら、それじゃ隙間から出てくるわよ。」と心配そうに言う。息子は得心したように、更にその上にガムテープで入り口を塞ぐ。これで何とか安心できる状態になり、一家はしばらくムカデの恐ろしさを語り合ってから各自の部屋へ戻った。勿論翌朝の話題はムカデ様のことである。

 

muka-chan.JPGこんな家庭に育った女房殿であったが、私と言う唐変木と結婚してからは、生き物に対する見方がすっかり変った。彼女は、今ではムカデのことをムカちゃんと呼ぶ。歩いているのを見つけても「きゃー恐い。早く外へ出してよ。」と言う位である。私は割り箸を持ってきて、ムカちゃんを捕まえると、透明の瓶に入れて戦利品を妻に見せる。「ほら、見てご覧。やっぱり、脚が沢山あるのは気持ちよくはないね。それにしても立派に育って。」流石に、姿をじっと見ることは彼女も出来ない。まだ、修行不足である。それでも、彼女も随分進化したと感じる。ムカデが洗濯機の中で死んでいるのを見つけた時、「水の中でくるくる目が回って、溺れ死んでしまったなんて、可哀想。」と合掌したそうである。またある時は、リボンの付いた帽子を被って鏡を見ていたら、その黒いリボンが動き出したので、慌てて脱いで、ムカちゃんを外へ放り投げた。「もう、入って来ないでね!」


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コメント 21

くまら

ムカデは・・・苦手です><;
by くまら (2009-11-30 11:05) 

ナカムラ

ムカデは刺されたことがあるので、苦手は苦手ながら久しく出会っていません。妻は北海道出身なので、大きなゴキブリを知らず、最初に見たときはカブト虫かと思ったといってました。今は平気みたいですね・・。
by ナカムラ (2009-11-30 14:25) 

doudesyo

今晩は。
田舎育ちの私としてはムカデが怖いとかありませんが、何故にこれほどの足を付けなければならなかったのかと思ってしまいます。
それにしても、「むかちゃん」とは恐れ入りました。^^;
by doudesyo (2009-11-30 20:44) 

yakko

お早うございます。
ムカデはコワイです。見つけたら一人で大騒ぎしています。
ゴキブリも苦手です。最近の殺虫剤は効きます (◎-◎;)
by yakko (2009-12-01 11:25) 

SILENT

こんにちは
ムカデは横須賀も崖が多く裏山からやって来て
天井裏を這い回りました。
油が多いので紙にくるんで燃やすとよく燃えました
さされると恐ろしいが
ムカデレースをやりたいからと中学の時友人に瓶に入れて
とって来てもらいました
レースをしようと土に降ろしたら見事に逃げられました
鎌倉では「ハガチ」と呼んでいるそうで、甲州のムカデ衆を知り旗印がムカデなのにびっくりしました
by SILENT (2009-12-01 20:17) 

旅爺さん

剪定した枝や落ち葉を山積にして置いたらムカデが涌いたことがあります。家の周りを綺麗にしておけば居なくなると思いますよ。
by 旅爺さん (2009-12-02 08:29) 

うに

気持ち悪い、怖い、とはいえども、先住民。
カラフルむかちゃんが、コミカルに、可愛く描かれているのは、
そういった敬意の現われなのでしょうか。(^^)
by うに (2009-12-02 09:54) 

ララアント

むかちゃんとなれば 怖さは感じませんね・・・
とっても ほのぼのとしたお話でした。

でも 40年も前 富士市に住んでいた頃
周りはキャベツ畑 赤ちゃんである息子の寝具に
近づいていた時は びっくりしました。
在住していたのは一年余りでしたが 
目を凝らして ムカデ退治をしてました。
by ララアント (2009-12-02 11:23) 

mimimomo

こんにちは^^
ムカデをムカちゃん・・・(@@ わたくしにはだめですね。
何でも殺します。そうしないとこちらが死ぬほど苦しい思いを・・・
by mimimomo (2009-12-02 12:55) 

sig

こんばんは。
中学生の頃、学校の裏山で15センチほどのムカデを捕まえたら、先生が標本としてホルマリン漬けにしてくれました。
by sig (2009-12-04 00:55) 

ひろきん

学生時代の事ですが、安いぼろアパートに住んでおり、
布団の上げ下ろしの時、腕の上にポトって落ちてきた事があります。
声も出ませんでした。。。幸いな事に刺さませんでしたが、
あのモゾモゾ感は、もう味わいたくないですね。
アパートの人に、番でいるから注意してね!って言われて、
友人宅に泊まりにいった思い出があります。^^;
by ひろきん (2009-12-05 21:41) 

YUYA

むかでっていう名前も恐ろしさを醸し出している気がします。
あんなに足が無くても良いですよねえ。
寒気がする感じですね。
by YUYA (2009-12-05 23:02) 

kuni

僕も修行不足ですね、ムカデには飛び上がります!
by kuni (2009-12-06 00:18) 

アヨアン・イゴカー

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by アヨアン・イゴカー (2009-12-06 00:19) 

アヨアン・イゴカー

くらま様
初めて見た時、恐ろしく気味の悪い生き物だと思いました。私も苦手です。が、殺したりすることはしません。

ナカムラ様
北海道に子供の頃いたので、ゴキブリを私も最初は知りませんでした。どんな虫なのかと好奇心が湧いたくらいですが、今では、如何にしてゴキブリを見ないようにするかを考える生活になってしまいました。

doudesyo様
そうですね。私も、どうしてこんなに沢山の脚がなければならないのか、時々思います。

yakko様
お一人で大騒ぎですか。他人を巻き込まないのはいい事です。
職場に迷い込んできた蛾を、思いっきり叩きつぶしが女性がいましたが、私にはその蛾が不憫でなりませんでした。私のところに飛んできたら、捕まえて外に出してやるのに、と。

SILENT様
>甲州のムカデ衆
そのような集団があるのですか?強そうですね。
ムカデは脂が乗っていて好く燃えるのですか?ムカデレース。これは面白そうですね、いたずらっ子がやりそうで。

旅爺さん様
師匠!お見事なご指摘です。背負い投げ一本!
我が家の周りには、落ち葉があって、私がそういうのが自然だと思って手をつけないので、結構団子虫やら、ミミズやら、ゲジゲジやらムカデの棲みかになっている可能性、大であります。もう少しちゃんと片付けるようにします。

うに様
自分達が偉そうに生活していることを、たまに反省したりしてみます。
ムカデがひと夏で何匹も出現した時、そうだ、ここは彼らの住処だったのだ、と思い至りました。

ララアント様
仰るように、呼び方を変えることでその相手に対する気持ちが変わります。
刺されるのが恐いので有難くはありませんが、ちっとも憎らしい存在ではありません。

mimimomo様
こういうのは生まれつきと、親の教育方針で決まるのでしょうね。
私の父は昆虫が大好きで、標本なども作っていました。子供の頃父に、蜂が飛んでいると「じっとしていなさい。動くものに向かってくるから。」と言われました。また、蜂が腕に止まった時も同様でした。そして父の言う通りにしていて、刺されたことがありませんでした。また、小学生の頃、蟻を水に沈めて遊んでいたら、「残酷なことをするものではない!」と叱られました。

sig様
15センチのムカちゃんですか?それは大きいですね。石川県には八田ミミズと言う50センチ以上巨大ミミズが居るそうですが、ムカデもそれ位のものが外国にはいるようです。そうなるともうこれは、ムカちゃんではすまなくなります。

ひろきん様
そうなんですよね。ムカデは天井からぽとりと落下してくることがあるのですよね。妻にも一度落下してきたことがあって、大騒ぎしたと言っていました。その時も、殺したりはしないで、外に放り出したようです。

YUYA様
まじまじと見つめると、結構気味が悪いですね。私は、どうして寒気がするような恐怖感を覚えるのだろうかと、ムカデを見ていたことがありますが、やはり分かりません。もしかすると、人類の祖先の哺乳類が、何億年も前に、ムカデに襲われる危険を何度も体験し、古い脳に記憶としてその時の恐怖感が刻まれているのかもしれませんね。

kuni様
ムカちゃんが、例えば髪の毛に落ちてきたり、顔に落ちてきたりしたら、それはもう、大騒ぎです。恐いです。ちょっと離れていれば平気なのですが。
kuniさんのブログの木工細工、とても素敵ですね。木目を見事に柄として使われていますね。
by アヨアン・イゴカー (2009-12-06 00:54) 

青い鳥

こちらにもムカデはいますが、まだ家の中に入られた事はありません。
でも、ヘビには2度入られた事があります。
どちらも大変なことで、あって欲しくない事です。
by 青い鳥 (2009-12-06 18:48) 

SAKANAKANE

ムカちゃんも、カワイイと思うんですが、サスガに刺されるのはイヤなので、触れないのが残念です。
昔、会社(と言っても、渋谷のマンションの一室)で夜仕事をしていたら、上からムカデが落ちて来て、こんな処にも居るんだ!?とビックリしたコトが有りました。
by SAKANAKANE (2009-12-09 21:12) 

ミモザ

ムカデは大きくて恐ろしいです。昔はヤスデをムカデと
勘違いしていて、本物のムカデを教えられた時は
気絶しそうになりました(^^)奥さま、エライですね。

by ミモザ (2009-12-12 20:35) 

アヨアン・イゴカー

青い鳥様
ムカデ君には、家に入ってきて欲しくないのですが、毎年律儀にやってきます。我が家には、蛇が出たことが三度あります。一回は、冬に、我が家の猫虎次郎君がマムシを運び込んで、何と炬燵の中に入れていました。幸い、マムシが冬眠中で動きがにぶかったので大事には至りませんでした。

SAKANAKANE様
夜仕事をしていたら、ムカデが落ちてくるなんて、もし背中に入ったらもうそれはホラーのような恐怖ですね。都内で見たことはありません。

ミモザ様
気絶しそうになりましたか。そうですね。やっぱりあの方は普通の人であれば恐いですから。
by アヨアン・イゴカー (2009-12-12 22:17) 

squat-yama

 伊豆大島の海小屋で「ムカデ」に刺され、七転八倒したことが2度あります。友人が「マムシ焼酎」を持って駆け付けてくれました。
 そんなことがあって、今は「ムカデ対策用蚊帳」を吊って寝ています。全面(6面)蚊帳で、蚊帳に入った時の安心感、風情。素っ裸で寝ても平気の平左。あぁ、もっと早くに見つけ、買っとけばよかったと思っている次第です。
by squat-yama (2009-12-14 05:47) 

アヨアン・イゴカー

squat-yama様
海小屋でムカデですか?海辺にもいるのですね。ムカデ対策用蚊帳?それはなんだか物々しいですね。
コメント有難うございました。
by アヨアン・イゴカー (2009-12-14 23:40) 

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