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劇団木馬座の思い出 その25 [劇団木馬座の思い出]

 今回は青春の思い出で、恥も外聞もなく紹介しておきたいと考えている恋文(二通目)をそのまま紹介しておこうと思う。多感な時代の、風を顔と髪と体に受けながら、高い断崖から海を見下ろしているような感覚が満ちていた頃の思い出である。

 一九七七年五月十五日 午前一時十二分

 風邪を引いて会社を休んだ僕は、眠るのにも飽きて、音楽を聴いていました。その中で酷く僕の心を揺さぶったのは、メンデルスゾーンの交響曲『スコットランド』でした。僕はそれを聴きながら、こんな情景を空想しました。
 第一楽章の揺れるような主題は、来たの夏の海辺です。少し荒いくらいの波がきらめいています。その波の音は、主題の音と共に高まり、また静まります。眩しい陽光を背に受けて、吹く風に髪をまかせて、霞むようにあなたが立っているのです。頭上に舞う鴎たち。すべてが音楽と一緒にゆらいでいるのです。
 第二楽章から、あなたと僕は映画館にいるのです。画面には霧が出ています。一艘の帆船が難破しかかっているのです。切り立った岩ばかりが見える、恐ろしいところに出てしまいました。
 しかし、嵐もおさまり、船は緑色した水の、天然の港に入ってゆきます。そこは船員たちの予想していなかった別天地。古風な服装の人々がいて、船の人々を歓迎してくれました。その島の領主は船員たちのために、宴を催してくれます。村の娘たちの踊りが始まります。そのうち船の人々も彼女たちに混じって踊り始めます。
 第三楽章では、島のシェーラザードが出てきて、数々の昔話をします。

 右手を怪我したこと。母が入院していたので、僕は食事の後片付けをしたりしていました。瀬戸物の皿を洗っていた時、力を込めすぎて皿が割れて、僕の親指の付け根をナイフのように切りました。真っ赤な血が、勢いよく溢れてきたので、傷口がずきずき痛みました。
 それから、僕は夢を見ました。あなたの夢を見ました。もう何度も夢で会いました。三週間以上も前に見たあなたは、お茶に誘った僕に、にっこりと笑いかけ、僕の腕にすがります。あぁ、なんて可愛いひと!でも夢ですからこんなこともあるのでしょう。ところが今日会ったあなたは、ぼくが呼んでいるのに、お願いしているのに、ぼくの隣に来ないで、よその男の隣に坐って、ぼくの方を笑いながら見ているのです。あぁ、なんて薄情な!
 いまは、ある人間になること(副業として)を
 目指している人間NHより
 理想のひととなって欲しいひと
 鶴姫さまへ

 (I should take you for idleness itself
Anthony and Cleopatra Act Ⅰ, Scene Ⅲ)

 以上が、彼女から返事が一通来てから、その次を催促する手紙として書いたものである。文章の中で、私が彼女をお茶に誘うと言う表現があるが、実際にはそのような勇気は私には無かった。不思議なもので、そのような場面を想像しているだけでよく、もしそうなった場合、どのように時間を過ごしてよいか分からないのである。
 この手紙は実際に投函されたものである。あて先は上記に書いてある通りである。後年、この木馬座の思い出を詩人の友人に読んでもらったところ、こういう文章を書くから、簡単に文通できなかったんじゃないの、と言っていた。この前に送った恋文は、文字だらけで、理屈っぽいところもある。もし、それをご覧になりたいと言うご意見があれば、次回公開したいと思う。

今回は、木馬座には全く関係ないが、学生時代に読んだ『ドン・キホーテ』をクレヨンで描いたものを、載せておく。あぁ、愛しのドゥルーシネーアの姫君よ!

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ゆきゆき

2月のなりました。体調如何。お大事に。
by ゆきゆき (2009-02-01 07:06) 

doudesyo

こんにちは。
情熱が伝わってきます。一生懸命だったということですね。文学的な感じもします。前後が分かりませんが、もしかしたら、本を出版されると共感するひとが多数出て、演劇の脚本になるかも知れませんね。
by doudesyo (2009-02-01 13:02) 

sig

電話でもない、メールでもない、ましてケータイでもない<ラブレター>。
こんなに文学的ではありませんが、心当たりがありますよ(笑)。
便せんを5~6枚も使い、夜通し書きました。
すると1週間位して、ほぼ同じ枚数の手紙が届きました。
そんなことを思い出しました。
by sig (2009-02-01 23:14) 

yoku

話が前後して済みません。
前のピアノ曲を今夜中の4時過ぎに聞いています。
(事情ですっかり遅くなりました)
昨日、雑木林を学生時代の友人と歩きました。
風がつよく激しく木々を揺らしていました。
このピアノ曲の激しく鍵盤を叩く音がその時の情景
にダブって見えました。
思い出25はこれから、ゆっくり読まさせてもらいます。
by yoku (2009-02-02 04:22) 

mimimomo

こんにちは^^
アヨアン・イゴカーさんは多分わたくしなんかよりずっとウェットなお方なんでしょうね~ 
こんな素晴らしい恋文は頂いたこともないし、書いたこともないです。
by mimimomo (2009-02-02 12:19) 

duke

ロマンティックですね。
by duke (2009-02-02 22:58) 

旅爺さん

我々の時代の恋文とは天と地ほどの違いがあります。
甘~~い恋文ですね。 私らは「付き合ってくれ~!」ですからね。
by 旅爺さん (2009-02-03 08:17) 

にすけん

 当方の回線整備待ちの間に随分と話が進んでしまいましたね。
 当たり前ですが(笑)

 個人的な経験で、何かの情景と音楽が抱き合わせで記憶されている場合は別として、近年の音楽は、それ単体で聴く人の心に情景を思い浮かばせることがなくなっているような気がしてなりません。
 手書き時代の文章は、本当に胸のうちの世界が実感を持って伝わってきますね。素敵だと思います。
by にすけん (2009-02-03 11:26) 

アヨアン・イゴカー

ゆきゆき様、ミモザ様、お茶屋様、Krause様、夢空様、doudesyo様、くらいふ様、さとふみ様、toraneko-tora様、takemovies様、アリスとテレス様、gaiagear様、クープラン様、olive様、サチ様、yoku様、めぎ様、shin様、mimimomo様、duke様、optimist様、旅爺さん様、にすけん様、イリス様、kakasisannpo様 nice有難うございます。

ゆきゆき様
体調は、ゆっくりとですが、良くなっていると思います。食欲も、大分戻ってきたと思います。有難うございます。

doudesyo様
確かに、突然このような文章が現れても、引かれる方も多いかもしれないとは思っておりました。
ところで、なぜ、このような手紙が残っているかと言うと、私は手紙を書いていて、自分が何を相手に書き送ったか忘れてしまいます。それで、下書きとして一枚書き、その後清書してそれを送ったのです。
勿論、文学的になるように、意識して書いています。
多分so-netブログになると思いますが、『私のナジャ』と言う作品を公開したいと考えています。これも劇団時代の思い出ですが、相手が詩を書いていた女性でしたので、とても文学的です。

sig様
この手の文章は書く時、異常に情熱的になっていますので、私の場合、文章に綻びがあったりしました。それでいいのだ、感情、思いが伝われば。

yoku様
風の吹く雑木林。その言葉だけで、詩的ですね。
私は、最早閉じこもりとなって外に出てくることの出来ない詩人の友人と、散歩しながらとりとめもなく話をするのが毎月の楽しみでした。その詩人のことは『神聖木曜日』と言う文章にまとめました。

mimimomo様
私の意図していたことを汲み取って頂き、有難うございます。
ウェットは感傷的と言うことでしょうか?確かに、仰る通りかもしれません。
私は自分をさらけ出し、それに共感してくれる人を求めていたのです。そして、この鶴姫は、ちょっとだけずれていました。彼女も詩を書いていたのですが、私には、子供っぽく、気恥ずかしかったのです。

duke様
私、大学一年の時に『ウェルテルの悩み』を読んで、こんな文章が書きたい、と思いました。浪漫的な精神、大好きです。

旅爺さん様
>私らは「付き合ってくれ~!」ですからね。
なるほど。直球勝負という奴ですね。私はどうも生来癖球を投げる傾向が強いのです。木で言えば、相当に根っこや枝っこがくねくねしている奴です。

にすけん様
最近は私は文章をすべてワードに打ち込みます。しかし、手帳を鞄の中に入れて、それには思いつくことをどんどんボールペンで書き込んでいます。手帳には、勿論、似顔絵やデッサンなども描きます。
by アヨアン・イゴカー (2009-02-04 16:23) 

zenjimaru

この文章からアヨアン・イゴカーさんの恋心を読み取り、理解するには
すごく賢しこい人ではないと無理ではないでしょうか
随分オブラートに包まれたラブレターですね^^
アヨアン・イゴカーさんが繊細な方だと感じます


by zenjimaru (2009-02-05 18:23) 

アヨアン・イゴカー

ChinchikoPapa様、zenjimaru様、くらま様、ぼくくま様、asahama様、デザイン屋様 nice有難うございます。

zenjimaru様
この文章は、三通目なので、直接的な言葉は使っていません。むしろ、自分の好きなことを言葉で表して、共感してもらえるかどうか、共感して欲しいと切に訴えている、つもりだった、と思います。
by アヨアン・イゴカー (2009-02-08 10:19) 

SAKANAKANE

およそ一般的な恋文とは、趣きを異にしているのですね。
受け手により、どう感じるか、振幅が大きいような気もします。
私は、ちゃんとした恋文を渡すような度胸も無かったなぁ・・・。
by SAKANAKANE (2009-02-11 11:50) 

アヨアン・イゴカー

SAKANAKANE様
私はいつもロマンティックなこと、劇的なことに憧れています。一方通行、独り相撲、大いに結構、と言う自棄になってしまう傾向もありました(ます)。
by アヨアン・イゴカー (2009-02-11 12:30) 

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