SSブログ

花見 [随想]

 先週の日曜日3月30日は雨の中、妻と夕暮れの中、花見に出かけた。予想していたよりも雨脚も強かったので、殆ど人のいない川沿いを傘を差して歩いた。新百合ヶ丘で旭川ラーメンを食べた。味がこってりしていて、美味しかった。
 今、You-tubeでAnne Akiko Meyersが弾くメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲を聴きながら書いている。簡単に雰囲気を味わえるのがいいが、簡便すぎるのが問題でもある。
 
 今日は、午後3時頃、私一人で花見に行った。先週は満開だったが、夜桜でその美しさが楽しめなかったからだ。今週は気温が低く、桜の花もまだ付いていると期待したのだった。が、実際には、先週と同じ道を辿ってゆくと、麻生川の川面にも、地面にも桜の花弁が無数に散っており、どこもかしこも桜色に染まっている。恐らく三割位は散ってしまったのではないだろうか。それゆえと言った方がいいかもしれないが、花見客も少ない。川沿いの日当たりの良い場所に、若者達、家族、或いは老人たち、或いは恋人たち、美大の学生仲間などがビニールシートを敷いて、少し肌寒い春の日の散り行く桜の下で食べたり、飲んだり、喋ったりしている。私のように、只歩いている人も見かける。川の向こう側の道路沿いには数件屋台も出ている。その美味しそうな匂いもこちら側には漂ってこず、炒めたりする音も聞えない。子供を連れた父親がいた。彼の子供たちは、ビニール袋一杯、はち切れるほど桜の花弁を詰めていた。確かに、桜の花弁の絨毯は余りに贅沢で、そのまま無くなってしまうのが惜しいと考えたのだろう。子供があの美しさに感動し、ビニール袋に集める気持ちがよく分かる。この桜並木の横をロマンスカーがゆっくりと通過してゆく。運転手の配慮だろうか。だとすれば粋な計らいである。
 そのまま歩いて、新百合ヶ丘に向かった。もうじき桜の並木の終わるところで、使い捨てカメラを持った老人から声を掛けられた。「シャッター押してもらえますか。」勿論快諾。「これを押せばいいんですね。」と一応訊いているのに、彼はさっさと自分の仲間のところへ戻り、人生経験豊かな仲間たちをまとめている。白髪頭の一群がこちらを向いてにこにこしている。「ぼく達平成生まれで~す。」などと言ってふざけている。写真を撮るときに少しは気の効いたことを言おうと思ったが、それも出ず、「せーの。はい。」などと言って、シャッターを押してしまう。「一足す一は二~」と言うところを、何故か「一足す二は三~」しか思い出せず、これでは馬鹿口を開けてしまうぞ、変だなと思っていた。一足す二は、と言わなくて正解だった。このほろ酔い加減の老人達の仲良し集団のためにシャッターを二回押した。私が写真機を戻して、歩き始めると、婦人の誰かが「あら、知り合いじゃぁなかったの?」と尋ねている。「あぁ、知り合いじゃぁないよ。」足早に先を急ぐ私の後方から「有難うございます。」と言う声が聞える。私も振り返ってお辞儀をする。
 今日の花見は静かだった。20年以上も前に、千鳥ヶ淵だったか、会社で花見に行った時に経験した喧騒も、賑わいもなかった。また、10年ほど前に、この同じ麻生川の花見に自転車で来た時に感じた「花見らしさ」も全くなかった。

 世の中にたえて桜のなかりせば 春のこころはのどけからまし

 散ってしまうのが悲しい、しかし、満開の桜のあの溢れる美しさは見ないではいられない。私は桜と言う花が大好きである。
あぁ、明日は平尾団地にある桜のトンネル潜りに行こう。もう、殆ど散ってしまっているかもしれないが。 



nice!(9)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 6

すうちい

昨日、空き時間にちょっと千鳥ヶ淵によりましたけど、異常な喧噪でした。
「桜の下にて春死なん」と思っても「そこ、止まらないでください!」と注意されるのが落ちだなぁ、なんて思いながら花見してきました。
by すうちい (2008-04-06 06:57) 

yoku

懐かしいです。結婚後すぐ住んだ団地です。うん十年前です。
ですから、百合が丘周辺は土地勘があります。
桜は最後の方がいいですね。私も今日行きます。
妻も忙しくやっと時間が取れそうなのです。
ヴァイオリンの話興味あります。娘(ヴァイオリニスト・パリ在住)
の影響でよくフランスで付き合わされて彼女の演奏にいきます)
今では苦ではありませんが、実は演歌なども好きなのです。
くどくどとつまらない話で恐縮です。。。。

by yoku (2008-04-06 07:10) 

アヨアン・イゴカー

すういち様 >異常な喧噪でした。
私が生まれたのは、北海道の奥地でした。人が恋しくなるほどの。そのため、萩原朔太郎の定本青猫『群集の中を求めて歩く』の心境がよく分かりました。が、現在では、多くの人間がいることが好きではありません。人波の中に入っていることの安心感は、時にはあるものですが。

yoku様 私は、自分ではバイオリンは弾けませんが、大好きです。弦楽器の音が好きなのです。お嬢さんは、どの時代を専門にされているのでしょうか。バロック、古典、浪漫派、現代音楽、それとも、全般的に何でも弾かれるのでしょうか?
by アヨアン・イゴカー (2008-04-06 22:42) 

yoku

娘はバロック、古典、浪漫といったところでしょうか。
影響で私もバイオリンは好きですが、学生時代は
クラッシックは喫茶店(時代が分かりますね・笑)
で聞いておりました。
by yoku (2008-04-07 05:54) 

g-life

思わぬところで「新百合ヶ丘」の文字を発見しました。
私もウン十年前?住んでいました。
噂によるとその頃とはかなり違って、町が開けたようです。
私がいた頃は、まだ新百合は、駅があるだけ、といった風情でポツリポツリと塾などが建ちはじめていました。
季節ごとの楽しみもあって、なかなか気に入っていました。
by g-life (2008-04-09 00:29) 

アヨアン・イゴカー

g-life様 すっかり開けてしまいました。新百合ヶ丘は。最近はOD不動産も活発ですし、M地所やM不動産も美しい雑木林を切り開いて、ありふれた町並みを造っています。
川崎のチベットと呼ばれたこの近辺は、不便で人があまり寄り付かないことが魅力だったのですが。
我が家のすぐ近くの道路脇の桜の大木も今日切り倒されていました。川崎市麻生区のシールが貼ってあったそうですから、麻生区の公認のもと切り倒したと思われます。妻は、悲しくて泣いたそうです。
by アヨアン・イゴカー (2008-04-09 01:20) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0