"Everything is in order"「『すべて異常なし』

　今年の夏休みは、少し大きな絵を仕上げることも計画の一部になっていた。そして、取り掛かっていたのが『鰯の埋葬』（『初恋詩集』の挿絵）である。高校の時の文化祭の印象を絵にした作品である。が、ここ数日あれこれ色を塗ったり、一部線を描き直したりしているのに、仕上げることができない。仕上げることが出来ないと言うのは、どの方向に持ってゆけばよいかがわからなくなる状況に陥ってしまっているということである。それでも、昨晩、新しい試みをしてみてから、どの方向へゆけばよいかが見えてきた。新しい試みと言うのは、一旦塗った色に歯ブラシに水をつけてこすって、ちり紙で色を拭きとってしまう手法である。この方法を使うと露骨過ぎる色彩が、まるで色彩が経年劣化した中世の壁画のような色合いになるのである。これは、今後使ってゆきたい方法である。
　さて、それでも『鰯の埋葬』は、焚き火の色を補強するところで今日は一旦中断することになった。このB2判の大きさの絵を描き始めているのは昨年位からであるが、なかなか慣れるまで時間が掛かる。細部はどこまで描きこむべきか、それが自分で確信がないからである。いくつか作品を完成してしまえば、その程度が感覚的に掴める様になるのだろうが、現段階ではまだ試行錯誤をしている。
　それでも、今日は気分転換のために、ほぼ95％ほど完成させてある『すべて異常なしEverything is in order』を仕上げてみることにした。そして、色を塗っているうちに、「あぁ、もうこれは描くところがないので、完成にしよう。」と内なる声が言った。しかも、題名も全く決まっていなかったのに「上官殿、万事異常ありません！」と言う言葉が浮かんできて、そのまま英語名”Everything is in order, sir”も出てきた。だからこの絵はこれ以上手を加える必要もなければ、再度時間を空けて見直す必要もない、そう思うのだ。
　この絵について、少しだけ解説しておくと、ブリューゲルの描いた『死の勝利』のような殺伐として風景の中に軍人達がいる。背景には縛り首になった人間がみえる。車裂きの刑につかう車輪も二つみえる。部下は上官に敬礼し「万事異常ありません、上官殿」と報告している。そして、この軍人達のことを平民達は恐れ敬って、土下座して受け入れているのである。とはいうものの、この軍人達も首に首枷のような板を制服の一部としてつけている。その首枷の板からは、青い宝石の付いた糸が垂れている。
　そして、この人間達の周りでは、動物達が人間達の愚かさをあざ笑うかのように、至って自然に動き回って、自由を満喫している。
　何故、このような絵を描いてしまったのかは不明であるが、いつもどおり私の心を反映しているはずである。兎に角、私が行う作業は常に衝動的、感情的であり、論理的な組み立てはしないことが多い。後で、多少辻褄を合わせようとすることがたまにある位で、基本的には、自分の気分にすべてを任せてしまう。勝手に終りになるまで任せておけばそれでよいのだ。

コメント 5

作品の制作においては，流れに任せた方が自然で強いように思います。
予め決めてかかると，気分が変わったり，想定外の事象が起きた時点で終わってしまいますので。
さすがにこの作品は完成度が高いと思います。一見上品な軍人たちが合法的に残虐行為を行い平民が恐れていますが，動物たちが無邪気に走り回っている様。昨年以来の共通テーマの様に感じます。
by Enrique (2014-08-18 07:29) 

どこに行くべきか解らなくなった時の工夫が素晴らしいです。
進路を工夫が切り開いてくれたのですね。
「全て異常なしEverything is in oder」異常だらけの世界が
感じられました。
by lamer (2014-08-18 19:06) 

怖そうな人間達と、生き生きと動き回る動物達。
その対比がとても面白い絵ですね＾＾
ところで、アヨアンさんはご自分の作品の額装はされないのでしょうか？
額縁に入れたらいっそう絵が映えるのでは、と思います＾＾
by Kanna (2014-08-19 20:43) 

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2014-08-24 22:46) 

Enrique様
何故か、このような絵になってしまうのです。もっと浪漫的な絵を描きたいとも思っているのですが、気が向くままにしておくと、自分が気になっていることを絵にしてしまうようです。

lamer様
行き詰まった時、放置しておいたり、大胆に思われることを試してみるのも良いのかもしれないと思っています。決して失敗させない覚悟をして、失敗の可能性のあることをやってみる、今回はそれに近かったかもしれません。
このところ、現実の世界が異常なものに向かっているように感じられ、心が落ち着かきません。

Kanna様
実際には動物達も人間と一緒である時は、生き生きしていないでしょうね。人間が一方的に管理しすぎている、そう感じます。
額装ですね。一定の作品数が溜まったら考えて見ます。
by アヨアン・イゴカー (2014-08-24 23:00)