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北海道の思い出 その13 [北海道の思い出]

 美生川の思い出 

 美生川はアイヌ語でびばいろと言うそうだ。この川の記憶の糸を手繰って行くと懐かしい風景が出てくる。私は兄や姉に連れられて川遊びに行った。海水パンツを持っている筈もなく、下着のパンツ一つで川で水遊びをした。苔が生えてぬるぬるする石を跣の裏に感じながら、向こうの中州に渡った。透明な水、煌く水、石の下に隠れる鰍(かじか)。それをどんかちと呼んでいた。どんかちを焼いて食べたこともあった。少々生臭かったが、それでも美味かった。水が重く生温くなっている淀にはヤツメウナギがいて身体に吸い付いた。それを兄が指で挟み取って見せてくれた。目玉に見えるのは目ではないのだ、と説明してくれた。

Bisei river.JPG この川の流水は飲むことが出来た。次姉が友達と、桃色の細いビニールの管を使って川の水を飲むのを、私も真似た。ストローのようなものなのだが、直径一ミリメートル位のビニールの管を通すと、口の中に少量ずつしか入って来ないので、特別な水であるかのように感じられ、冷たくて美味しかった。

 小学生の一年生の夏だろうか、私は美生川に架かる上美生橋の欄干から川面を見下ろした。そして、下って行く川の流れと見つめていると、自分が動いているような錯覚を覚えるのを楽しんだ。どんどん自分が上流に後退してゆく感覚。そしてあの静かな川の流れる音。

 

行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみにうかぶうたかたはかつきえかつむすびて、久しくとどまることなし。

 

 ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ

   われらの恋が流れる

  わたしは思い出す

 悩みのあとには楽しみがくると

・・・(アポリネール詩集「ミラボー橋」堀口大學訳)

  

 それともう一つ美生川の思い出がある。あれだけ記憶が残っているのだから、多分五才位の頃だと思う。コンクリートで出来たこの上美生橋が出来る前のことだったのだろうか。濁流の中に、木で作られた危なっかしい橋が、この川に架かっていた。架かっていたと言うより、木で作った骨格のような構造物が岸から岸へ横断していた。それを渡って、学芸会を母と弟と観に行った。荒れ狂い、激しく流れる美生川の一面である。

 
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コメント 8

mimimomo

こんにちは^^
昔の子供は自然の中で遊んでいましたね。
そこで自然の怖さや面白さも、ついでに後で知る物理なども自然のうちに
身体で覚えていたように思います。
良い思い出ですね。
by mimimomo (2012-05-20 15:29) 

SILENT

絵の河辺の情景素敵ですね
by SILENT (2012-05-20 21:08) 

Kanna

私の家の近くにも川はありましたが、どの川も緑色に濁っており、家々の排水溝から出てきた洗剤などの泡や油が所々に浮いていました。
アヨアンさんの遊んだ川は透明で綺麗な川だったのですね。
それもその水を飲めただなんて、とても羨ましいです。
水を飲む少年少女の絵、とても良いですね。
子供達の感情や思考が背中から伝わってくるようです。
by Kanna (2012-05-21 00:28) 

Enrique

私の地方ではかじかはゴリとかガンコとか言っていました。オショロコマやアメマスなどもいた事でしょうね。穫るのは小さい子では大変だったでしょうが,かじかは子供でも穫りやすかったのでしょうね。今は大変な珍味ですが。
川がコンクリートで固められる前は,流れで水は浄化され,水辺の生物を育んでいたのでしょう。暴れる川もまた自然の営みだったのでしょう。
by Enrique (2012-05-21 01:25) 

yuyaさん

お話を読んで、やはり自然の中が一番だと改めて思いました。
毎日が車の騒音よりも、小鳥の声や川のせせらぎの方が良いのは明らかですね。
川というのは、特別冷たい水の印象があります。
様々な水の流れもあり、海や湖とはまた違った美しさがあって、とても好きです。
by yuyaさん (2012-05-21 12:12) 

sig

こんにちは。
北海道らしい美しい光景ですね。私の子供のころの川は田んぼの用水で、夏はそこで泳ぎましたが黄色く不透明でした。良岸には背の高いアシが生え、潜っている頭の上をヘビが泳いで行きました。
by sig (2012-05-21 17:42) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様、404様、kurakichi様、りんこう様、めもてる様、lamer様、アリスとテレス様、CountryBoy様、niki様、marumaru様、青い鳥様、kakasisannpo様、flutist様、えれあ様、schnitzer様、SILENT様、ChinchikoPapa様、般若坊様、くらま様、caveruna様、スマイル様、silverag様、Enrique様、glennmie様、旅爺さん様、ミモザ様、ゆきねこ様、まっちゃん様、お水番様、チョコシナモン様、山子路爺様、rtfk様、sig様、JR浜松様、carotte様、スー様、gigipapa様、toraneko-tora様、siroyagi2様、水郷楽人様、マチャ様, Halumi様、Loby様、海を渡る様、orange-beco様、zenjimaru様、月夜のうずのしゅげ様 皆様nice有難うございます。

by アヨアン・イゴカー (2012-05-27 23:06) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
北海道もそうでしたが、川崎市に引っ越してきてからも、緑の多い場所に住んでおります。自分にとって、自然は不可欠であると常々感じています。

SILENT様
残念ながらいい加減な記憶で描きました。きっともっと綺麗だったのだろうと思います。

Kanna様
美生川の水は透明で、本当にきれいでした。カジカと言う魚が泳いでいるのがよく見えました。
どんなポーズをして水を飲んだのか覚えていませんので、想像しながら描きました。

Enrique様
治水と言うのは、農業的な観点、経済的な観点からは重要かもしれませんが、人生を普通に人間らしく生きていくためにはやりすぎは宜しくないと思います。自然の浄化力、自然のエネルギーの大きさを知る為には、護岸工事などをしないであるがままの姿を一定量以上は保存しておく必要がある、自然から学ぶことはまだまだ沢山ある、と思います。

yuya様
もう、20年位前のことですが、私は自動車の騒音に突然耐えられなくなってムンクの「叫び」の絵のように、慌てて雑木林の中に逃げ込んだことがあります。発作的に、人工的なものに囲まれているのが、我慢ならなくなったのです。

sig様
映像になる情景ですね。子供達が水に潜っている上を、蛇が泳いでいる・・・好いですね。ちょっと恐いですが。
by アヨアン・イゴカー (2012-05-27 23:18) 

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