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劇団ハートランド第13回公演を下北沢ザ・スズナリへ観に行く [日記・雑感]

 SSCN0284.JPG今日、5月30日土曜日午後二時から、劇団ハートランド第13回公演を、下北沢へ行く。この芝居は、六年前に初演され、今回は再演である。初演の時は、正直言ってまったく何の感想も抱かないほどの劇だった。
 しかし、今回は前回の公演と比べると月とスッポンほどの違いで、格段に内容が充実していた。好き嫌いで言えば、まだ好きと言える芝居ではないが、それでも遥かに好くなっていた。今日はそのよくなっていた点について書いて置きたい。
 最初に、物語について作者の中島淳彦の挨拶から引用してみよう。
 
 女子刑務所の話です。6年くらいに書いた作品です。その時に、女子刑務所のことを色々と調べたはずですが、もうなーんにも記憶に残っていません。(省略)さて、女子刑務所の囚人さんはどうなんでしょうね?刑務所で暮らす何年かの間に、何か積み重なるんでしょうか?(略)
 
 配役が大幅に変更になっていたが、まず、座長の高橋亜矢子は刑務官の役から囚人の役になっていた。これは大いに意味のある配役変更だったと思う。こちらの方が、ずっと彼女らしさが出ていてよかった。特に目を引いたのは元小学校の教師役、田沢恵子を演じた大西多摩恵である。彼女が演じた女囚は、小学校時代の懐かしい思い出、悲しい思い出がよく演じられていたので、真摯な教師の犯した哀れな罪が際立っていた。(尤も、それは台本に十分に描かれているとは思えないが。)彼女の演技が好かった。また、レズビアン疑惑で騒動になる安田刑務官と先崎との関係も、今回はしっかりと演じられていたので、芝居の輪郭がはっきりしていた。ボランティアで囚人達を見舞っている松川百合子役の梶原茉莉も、演技に落ち着きが増し、より迫真に近付いていたと思う。
 今回印象に残ったのは、他には演出がきめ細かくなった点である。6年前にはばらばらに演じられていた役が、糸のついた十の凧が一人の演出家によって一箇所に引き寄せられるように、まとまりが出来ていた。台本も一部書き直されていで、その改訂もよくなった原因である。照明も好くなっていた。大庭照明研究所のコンノエミコによるものだが、刑務官の居る部屋、舞台の正面中央にある窓、そこに注がれる明るい外光は、娑婆と刑務所を対照的に描いていた。娑婆の空気がきらきらと輝いているように見えるが、そうでもないことが芝居の進行で徐々に判明してくる。瞑想的な方法による、娑婆への復帰イメージトレーニングの場面なども、同じ舞台にも拘らず一瞬ヨガ道場を思い起こさせる。これは見事だった。ついイメージトレーニングに引き込まれそうな気分になった。
 音響井出比呂之。歯切れのよいピアソラの音楽による味付け。暗い物語の展開に、心地よいスパイスとして響いた。彼は音が強すぎる傾向があるのだが、今日は押さえられていて芝居をのものに集中することが出来た。
 囚人を監視している筈の刑務官が、いつの間にか他者によって監視されている、あるいは隔離され自由を奪われているような気分になる。この発想は、社会仕組みを裏側から見ているようで、気に入った。看守も囚人同様に束縛されている、と言う不合理。しかし、この世はそんなものかもしれない。管理している社長や経営陣が、実は社員たちによって、操られていることもある。宣伝広告で操作している筈の消費者によって、企業が引きずりまわされていることもあるだろう。
 作者がどこまで意図していたかは分からないが、今回は兎に角、見ていて楽しめる劇になっていたと思う。


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コメント 14

Krause

レトロな雰囲気でよい雰囲気のポスターですね。
by Krause (2009-05-31 04:57) 

kazn

nice!&コメントありがとうございました。
芝居のことはサッパリですが、また訪問いただければ幸いです。
by kazn (2009-05-31 08:28) 

Cecilia

興味深い内容の公演ですね。
ポスターもよいです。
アヨアン・イゴカーさんは演劇に深く関わっていらっしゃるので着目点もさすがだなあ・・・と感じました。
学生時代は寮で同室の子が演劇サークルに入っていたのでその関係もあって結構いろいろ観に行っていましたし、駒場東大にも何度か観に行った記憶が・・・。
以前書いたと思いますが下北沢の本多劇場などにも何度か観に行きました。
また子供を持つようになってからも、”おやこ劇場”なるものでいろいろな劇団の劇を見る機会が多かったです。

それとピアソラも結構好きです。
by Cecilia (2009-05-31 11:38) 

にすけん

 昔、警察に測定間違いの速度違反をふっかけられて突っぱねました。
 翌日から、こちらを屈服させるための集団ストーキングを3ヶ月にわたって仕掛けてきたのですが、それを逆調査して突きつけてやったら、ぱったりおとなしくなりました(笑)
 面白そうな心理描写が想像される舞台ですね。どんななんだろう。
by にすけん (2009-05-31 12:11) 

mimimomo

こんにちは^^
何方かもコメントで書いていらっしゃいますが、
アヨアン・イゴカーさんの見方はやはり玄人ですね~^^ わたくしは
『あー面白かった』と思うだけ^^

社会は確かに、見るアングルで全然違ったものになりますね~
by mimimomo (2009-05-31 14:29) 

sig

こんばんは。
映画もそうですが、期待していくと裏切られることが多く、その反対に出くわすとうれしくなりますね。
今回のアヨアン・イゴカーさんはそれとはちょっと違うかもしれませんが、納得できるお芝居でよかったですね。
by sig (2009-05-31 23:18) 

アヨアン・イゴカー

Chinchiko-Papa様、Krause様、さとふみ様、いっぷく様、旅爺さん様、takemovies様、kazn様、くらま様、くーぷらん様、夢空様、koo様、銀四郎様、Cecilia様、にすけん様、アリスとテレス様、mimimomo様、北海道大好き人間様、lapis様、takagi様、AWFUL様、えれあ様、お茶屋様、toraneko-tora様、SILENT様、春分様、デッコン様、sig様、orange-beco様 皆様 nice有難うございます。

Krause様
このチラシを描いているデザイナー、好いですよね。私も好きです。既に一つの世界が出来上がっていると思います。

kazn様
またお越し下さい。宜しくお願いします。

Cecilia様
演劇がお好きなのですね。
ピアソラと言う作曲家は、油断なりませんね。タンゴの革命のために、フランスでブーランジェに学んでいるのですからね。ただのタンゴではありません。私の長姉が昔からファンで、ピアソラピアソラと言っていました。ちなみに姉は感性だけが頼りの人です。

にすけん様
そのような武勇伝をお持ちの方のお口に合うような芝居ではないと思います。まぁ、それでも前回と比べれば随分改善されているので、良く書いてみました。妻が、べた褒めね、と言っていました。褒めすぎに聞えたかしらん。

mimimomo様
私は先ず感情で判断します。次にああでもない、こうでもないと屁理屈をこね回しているのかもしれません。まぁ、それも多少知的な楽しみの一つです。

sig様
そうですね。裏切られることは存外多いものです。
今回も裏切られるのではないかと思って、斜に構えて観ていました。そうしたら、とんでもない、良くなかった部分が殆ど改善されているではありませんか。勿論、肝心の台本は、もう少し加筆訂正があった方がとは思っています。(売れっ子になっている脚本家ですが、思うことは言わずにはおれません。)

by アヨアン・イゴカー (2009-06-01 00:31) 

sak

最近演劇見る機会がなくなっていて...
久しぶりに見に行きたいなぁ♪

by sak (2009-06-02 00:46) 

zenjimaru

映画でもそうですが、監督、ディレクターが何を言わんとしているか・・
考えるのは面白いですね
表は考えようによっては裏、逆もあり・・成る程です
政治家が官僚を管理するのが正しい姿なのに全く反対の日本です
by zenjimaru (2009-06-03 09:56) 

デザイン屋

しばしご無沙汰し、失礼いたしました。
by デザイン屋 (2009-06-04 20:23) 

SAKANAKANE

批評だけ読むと、かなり良さそうなんですが、「まだ好きと言える芝居ではない」んですね。
アヨアン・イゴカーさんが、手放しで好いと思えるのは、どういう感じのモノなのでしょう?
by SAKANAKANE (2009-06-04 20:51) 

アヨアン・イゴカー

sak様
私もたまにしか芝居を見に行くことはありません。
見に行くと、しかしながら、どうしてもいろいろ考えてしまいます。

zenjimaru様
傀儡政権というものもありますが、実は人形に人間が操られている、と言う政治風刺がが昔ありました。

デザイン屋様
長らく更新がなかったので、体調がお悪いのかと心配でしたが、お元気そうでなによりです。

SAKANAKANE様
手放しで好いと思える作品は少ないと思います。
私の好きな作品は、構成がしっかりしていること、含蓄のある台詞があること、単純すぎないこと。含蓄のある言葉と作者の主張に一貫性があること。これは台本から見た場合。
俳優については、台詞をしっかりと自然に喋ることができる、感情の流れが自然であること、相手との掛け合いに於いて矛盾がない、もし矛盾がある場合には矛盾がある必然性がある、演技が大げさすぎない、無意味な振りをしない、意味の無い台詞を大きな声で喋らない、など。
演出家には、芝居の意図を汲み取り、再現するようにしっかりと俳優達をまとめてゆくこと。配役もそのためには重要になってきます。間違って割り振られると、芝居そのものが別の方向に行ってしまいます。
劇団ハートランドの芝居では10年位前に観た『キリキリマイガールズ』と言う作品が面白いと思いました。尤も、俳優の演技はまだ水準が低く、60%位の評価ですが。もっと台詞の練習をしなければ、と勝手に思っています。芝居には登場しない男が、舞台の女達をきりきりまいさせると言う物語です。主人公の不在、と言うテーマが私は好きです。
by アヨアン・イゴカー (2009-06-06 00:14) 

ミモザ

この女子刑務所のポスターは興味深いですね。
看守さんとトランプしている人もいたりして(^.^)
by ミモザ (2009-06-06 08:39) 

アヨアン・イゴカー

ミモザ様
このチラシの絵ーを描いている男性は、もう既に一つの世界が出来ていますね。毎回チラシを作るたびに、いい味がでていると思います。
絵では芝居の内容に関係なく、デザイナーのイメージで描いている部分があります。それはしかし、大きな問題にはなりません。
by アヨアン・イゴカー (2009-06-09 00:57) 

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