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守宮のバンノスケ [日記・雑感]

 今日も暑い一日。私には、気休めに過ぎないのだが、一時の納涼方法がある。霧吹きで自分の周囲に霞を作る。自分は雲の中にいるような、山荘の朝まだきのなかにいるような、或いは深い森の林間にいるような気分になることができる。特に、ベランダに伸びているイロハかえでの葉裏や、玄関を覆っているサネカズラの葉裏に霧を吹き付けると、水滴が光輝き、清涼感に満たされる。草蜘蛛という種類なのだろうか、棚引くように折られた白い巣の上にも水滴が無数に拡散する。30度を越す熱風も、このかすかな抵抗によって、ほんの少しだけ和らぐような気がする。
 玄関のサネカズラにはアオバハゴロモと言うヨコバイの仲間の昆虫が沢山住み着いている。彼らに霧吹きを向けると、サネカズラの幹を盾にして、その後ろに隠れる。幹に沿って一斉にずらりと並び放水車からの水鉄砲を避けるのである。まるでデモ隊と機動隊のようである。(このアオバハゴロモと言う昆虫の名前を調べるのに暫く時間が掛かってしまった。ウェブで探していたら福光村昆虫記と言うHPがあり、やっと名前が分かり溜飲が下がる。福光村様、利用させて頂きました。有難うございます。)彼らは飛び回っては、サネカズラやマサキに白い菌のようなものを産み付ける。枝や柄を取り囲んだ白いものに霧を吹くと、白い菌のようなものが吹き飛ばされ、その中からこれまた白い布を被ったような幼虫がぞろぞろ出てくる。彼らも成虫と同じように水滴を避けるのである。
 こんな悪戯をして振り返って、玄関の扉下に目をやると、なんと干物になった守宮君がいるではないか。一週間ほど前には、元気に壁を這い回っていたのに。そしてあのシーツを被ったお化け、アオバハゴロモを食べていたのだろう。彼に違いない。あぁ、しかし、すっかり乾燥して、厚さもまるでなく、一ミリ位しかない。精巧にできた肋骨や尾骨が展翅板に載せられて平らにされたかのように、平たくなってしまった一枚の薄い皮に、彼が二次元ではなく三次元の生き物であった証拠を、骨の厚みで検証しているのだ。短時日で化石のようにぺしゃんこになってしまった守宮君。

 私は、この可愛い守宮君を、夜に帰宅した時に見つけると、疲れが吹き飛んでゆくような気持ちになった。猫たちが生きていた頃、私を玄関に迎えてくれた時にも、同じように、一日の疲労がゆっくりと融けてゆくのを感じた。
 ペットの魅力は、その独立性にあると思う。価値観も、思想も、趣味も、あらゆるもの全くを共有しない存在、それがペットである。人間が持っている人間的なものを全く否定してしまう存在である。それゆえに癒されるのではないだろうか。自分を理解してくれる故に癒される場合、自分を理解してくれないが故に癒される場合、その両方が癒しにはありそうである。そして、少なくとも私と言う人間は、この両方の癒しが必要である。
 そのペットが、死骸ではなく、既に鉱物と化してしまっているのを発見した淋しさ。生々しくない、不思議な淋しさである。

 昨年、守宮のバンノスケ君のために書いた、ピアノ曲『守宮のバンノクケのためのワルツ』を、このブログに公開し、バンノスケ君の思い出にしたい。Muzieの反応が一番よい曲(投票数今のところ20票)なので、私も予想外で、理由が分からない。核になる部分の音は古典的な音であるが、不協和音の連続になっているので。


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コメント 15

えれあ

ヤモリ君もワルツを聴いて喜んでくれるでしょう。
ハンターが居なくなるとアオバハゴロモが増えますね。
by えれあ (2008-08-03 19:57) 

いっぷく

アオバハゴロモの行動がおもしろい。
昆虫と水の関係は考えたことなかっただけに
なにか新鮮な驚きもありました。そういえば雨の日に
昆虫はあまり見かけないかな。みんな隠れているんだろうか。
by いっぷく (2008-08-03 21:59) 

mimimomo

おはようございます^^
この頃我が家ではアオバハゴロモ見かけなくなりました。
数年前までよく来ていましたがね~ 招かざる客でした・・・
by mimimomo (2008-08-04 04:23) 

g-life

とても面白い描写で、アオバハゴロモの「機動隊とデモ隊」はとっても感じがわかりました。イゴカーさんのお庭を知っているような気分になりました。
「自分を理解してくれる故に…」と「自分を理解してくれない故に…」はとてもよくわかるような気がします。両方に恵まれると幸せですね。
by g-life (2008-08-04 09:46) 

旅爺さん

今朝は朝起きたら室内が30度!”外で霧をかぶったら・・・・・バタッ!”
我が家の畑にはカメムシ(ヘッピリムシ)が多いです・・・・クサッ!”

by 旅爺さん (2008-08-04 09:52) 

すうちい

アオバハゴロモの幼虫には思いっきり放水したくなりますねぇ。^^;
守宮君、可哀相でしたね。命ははかないなぁ。生きていたときとタンパク質組成は一緒なのに。春の道路にのびてる蛙の干物を見てはよくそう(変な感想を)思います。
by すうちい (2008-08-05 08:39) 

アヨアン・イゴカー

doudesyo様、moonrabbit様、さとふみ様、にすけん様、デザイン屋様 nice有難うございます。

えれあ様
実は、今晩など玄関のサネカズラの蔓にはずらりと、この薄緑青色の羽をした天使が縦隊を作っておいでです。

いっぷく様
水と昆虫と言うのは面白いです。最近の私の悪戯は、脚長蜂に霧吹きで水を吹きかけることです。こうすると、蜂は羽が重くなって、飛べなくなります。慌てて柿の葉なんぞにとまって乾かしています。

mimimomo様
アオバハゴロモは、招かざる客ですね。彼らは私にとって別段迷惑な存在でもないので、共生しています。でも、やっぱりちょっと困るのは、例の白い糸の塊のような物質が伸びた蔓の先についていたりすると、出掛けに気付かずにその間を通過すると、背広や髪の毛についてしまうこともあります。

g-life様
自分を理解してくれない存在。それは無生物などが例として適切かもしれません。輝く石の原石を持っていれば、それが好きな人は慰められるでしょうから。自分を理解してくれる存在、これは極言してしまえば、相思相愛的関係でしょうか。自分を理解してくれない存在、これは片思い。片思いは、実にロマンティックな恋だと思います。

旅爺さん様
カメムシが多いんですかぁ!?
カメムシと言うと、冬季にはサッシに転がっていたりします。天道虫もそうです。

すうちい様
以前は、つまり三十年以上前には、我が家の近くの道でヤマカガシが車に轢かれてペシャワール、ぺしゃんこになっていました。蛇年なのに蛇の苦手な私ですが、そんな哀れな姿を見ると、心の中で合掌であります。生き物の死んだ姿には、なぜか目が行きます。そして、合掌。これはどういう仕組みになっているのでしょう。
by アヨアン・イゴカー (2008-08-06 00:25) 

SAKANAKANE

守宮さんは、残念でしたね。
私は虫(主にゴキブリの幼虫)を食べてもらいたくて、よくガマガエルやヤモリを見つけると、捕まえて家の周囲に放していました。
更に私事ですが、生きている虫や爬虫類は、大抵平気に触れたりしますが、死体になった途端に、全くダメになってしまいます。
by SAKANAKANE (2008-08-07 00:23) 

僕もくま私もくま

nice!&コメント有り難う御座います。

アオバハゴロモって見たことないんですよ。
それとも、もしかして、気づかないだけなのか…。
by 僕もくま私もくま (2008-08-07 07:00) 

アヨアン・イゴカー

ハギマシコ様、lapis様 nice有難うございます。

SAKANAKANE様 
守宮君、本当に干物を見た時はがっかりしました。
我が家の外のコンクリートで作った構造物の中で、ヒキガエルが干物になっているのを発見してぎょっとなったことがあります。小さな土手からこのセメントの空間に落ちて、上に上れなくなってしまったのでしょう。普段見ない場所だったので、彼が苦境にあったのに気付かず仕舞いでした。慌てて板で坂道を作っておきました。その後、ここに落ちて死ぬ生き物もいなくなったので、その坂道も外しています。

僕もくま私もくま様
アオバハゴロモって、綺麗な昆虫です。今回名前が分かって、私としては大満足なのです。昆虫にしろ、鳥にしろ、樹木にしろ、鉱物にしろ、兎に角私は名前を覚えると、とても仕合わせな気分になれます。少しでも、近付くことができた気になれるからです。

by アヨアン・イゴカー (2008-08-07 22:05) 

ミモザ

アヨアン・イゴカー さんの生き物に対する慈愛のお気持ちを
嬉しく感じてしまいました。
どうしてか今回は音楽が聞こえなくてとても残念です。
守宮君ですか、彼も光栄だと喜んでいると思います。
by ミモザ (2008-08-08 18:14) 

青い鳥

初めて訪問させて頂きました。
総合芸術ブログとの事だけあって、盛り沢山の内容に圧倒されました。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
守宮君、可哀相でしたね。
でも音楽まで作ってもらえて、きっと喜んでいると思いますよ。
by 青い鳥 (2008-08-08 20:29) 

アヨアン・イゴカー

めぎ様、夢空様 nice有難うございます。

ミモザ様 
私は生きているもの全般、動物も植物も、また、「生命」と呼ばれるものを持っていない鉱物にも大きな関心があります。どれも自分と同じ物質であると考えているからです。

青い鳥様
宜しくお願いします。ソネットブログには研究者、大学や塾の先生、或いは専門職の方々、或いは独自の人生観を持って生きていらっしゃる方々もおいでで、多くの刺激を頂戴しています。
by アヨアン・イゴカー (2008-08-09 12:13) 

mompeli

ヤモリ君は昔 神社の敷地内に立っていたアパートに住んでいたときのオトモダチ?でした。夜中に起きて暗がりを歩くと足元でキュッってないたりする。でも引越の時にやっぱりいたんですよ。ヒモノ君が。寂しかったですね~やっぱり。 
by mompeli (2008-08-15 08:18) 

アヨアン・イゴカー

mompeli様
神社の敷地内であれば、緑が多いでしょうから、昆虫も多く、守宮君も居るというわけですね、きっと。
足元で、キュッて鳴いたりるすんですか?声を出すのは知りませんでした。
by アヨアン・イゴカー (2008-08-15 09:06) 

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