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Amedeo Clemente Modigliani [日記・雑感]

 今日は、乃木坂にある国立新美術館で開催されている『モディィアーニ展』(Modigliani et le Primitivisme)を見に行く。
当然のことながら、予想通り大変混雑している。私は順番には見ない。空いている、人のいないところにまず行って見て、逆行してあちらへ行ったりこちらへ行ったりする。迷惑な人間かもしれない。当人は迷惑をかけていないと思っている。
 私が気になったのは、caryatidと言う女像柱のデッサンであった。何枚も何枚も同じような大きさで描かれていた。何のために彼は執拗に描いたのだろうか。新聞紙に水彩で描いたものもあった。構図と形はどれも似たようなものである。同じものを描き続けると言うことは、その同じ形の中に何か拘りがある証拠である。その形からの脱却或いはその形への脱却が意図されている、と思う。それがfromなのかtoなのかは分からない。ピカソやマチスのいた時代、キュビスムやフォービスムからも離れて、自分の画風を追及したのかもしれない。アフリカの原始美術やカンボジアの彫刻の影響を受けているように、確かに見受けられる。
 ちなみに私の伯父は画家であるが、彼はニューギニアかアフリカの仮面を持って、「どうだ、いいだろう、これ。」と自慢そうに見せてくれたことがある。もう数十年前のことであるが。その仮面は黒い材木に、白い色が塗られていたと記憶している。素朴な作りの仮面であったが、原始美術の美しさをあの時感じたのは忘れられない。価値観に落差があればあるほど、価値観の位置エネルギー差が大きいほど、芸術家に与える感動も大きい。
 カリアティッドのデッサンを描いているのは画家28,9歳の頃で、模索していたことが分かる。私はカリアティッドの絵や画家の作品の中に、原始美術よりもギリシアのarchaicなものを感じた。
 こんなことを言っては失礼かもしれないが、私はモディリアーニのデッサンを上手いと思わない。技術的には感心させられない。しかし、彼にはデザイン的な感性が素晴らしく、まるでデザイナーのデッサンのような粋な線が描かれている。
 1916年から1917年になると画家の方向が見えてくる。構図、描くべき対象、色彩、線などが確立されてくる。第一次世界大戦も真っ最中である。ロシア革命の頃でもある。
 画家の仕事も、考古学のように発掘しながら、意味を考えてゆくことは面白い。
 今回の展覧会で見た作品で私のお気に入りは以下の通り。
 『C.D.婦人』『若い娘の肖像』『タータンチェックのドレスの女』『ルニア・チェホフスカの肖像』『コンスタン・ルプートル』『少女の肖像(ユゲット)』『レオポルト・ズボロフスキ』『大きな帽子を被ったジャンヌ・エビュテルヌ』
 ジャンヌ・エビュテルヌは画家の妻だった人だが、写真をみると美しい人だ。35歳で肺病などで衰弱死した夫の後をおってアパートの五階から飛び降り自殺をしたと言うことだが、なんとも悲しい。まだ20歳の若さである。これは親の意思に反して恋人の元へ走った女性の悲劇でもある。彼女も才能があったのではないかと思う。

 尚、参考までにcaryatidの語源を岩波の大英和辞典で調べると、ギリシア語 karuatides(priestess of Artemis at Karuai(Laconiaの村)と書いてある。ラコニアにあるカルアイ村のアルテミスの女聖職者(巫女)。
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コメント 8

いっぷく

モディリアーニの長い首の女性とかの絵の印象が常につきまとい、
それが気になります、今でもですが、彫刻家になろうとしていたと知って彫刻ならバランス的にも面白いと思いました。
アフリカの原始美術にピカソも強く影響を受けていますね、彼のアトリエにはいつもアフリカの人形やら仮面やらを置いていたことからもわかります。
モディリアーニも距離を置いているように見えて同時代の空気から抜け出せずにいたんじゃないかな。
当時の日本の美術界も影響を受けていたわけだし、伯父さんも強く影響を受けていたんでしょうね。
by いっぷく (2008-05-07 19:20) 

アヨアン・イゴカー

めぎ様、ゆきねこ様、ribbon様 nice有難うございます。

いっぷく様 芸術は悩むことから始まると思います。何について悩むか。悩みそのものが芸術であるとも思います。自分の作り出したいもの、作り出さずにはいられぬもの、それが何か、なんだったのか。或いは自分にはそういう新しいものではなく既に存在しているものを深めてゆくのが向いているのか。十代には、自分は革新派なのか、それとも集大成派なのか、などと考えていました。
時代からは自由になれない、しかし、時代から離れようとしないと、新しい時代を作ることはできない。水飴のような時代の空気、そこから飛び出す、抜け出すことができるか、芸術家は常にそれを模索しています。芸術家に限らず、学者も、技術者も、何でも新しい分野を切り開く者、切り開かざるを得ない者はこの共通の悩みを持っていると思います。
by アヨアン・イゴカー (2008-05-08 09:37) 

mistletoe

アフリカの原始美術に影響を受けたアーティストは沢山いますね。
日本の縄文土器に影響を受けた・・・と言えば岡本太郎氏。
こういった自然からくる造形に影響され、美しいと思うのは
とても自然な事のような気がします。

モディリアーニ・・・私は彼の描く人物の瞳に魅了されています。
そしてジャンヌ・エビュテルヌ・・・美しい女性でしたね。

by mistletoe (2008-05-08 15:40) 

yoku

確かに、モディリアーニはアフリカなどの原始美術の
影響を受けているように見受けられます。
ところで、伯父さんはニューギニアなどの仮面を
お持ちだったとか。私も数年前、気に入りニューギニアのものを
家で飾っています。
非常に気に入っていますが、カビが生えることもあって
妻には嫌われていますが(笑)、仮面だけでなく神の彫刻も
気に入っています。

by yoku (2008-05-09 20:11) 

アヨアン・イゴカー

mistletoe様 岡本太郎が縄文土器に影響を受けたのは、あの人物の性格上当然だったのではないでしょうか。アフリカとかニューギニアとかインドやペルーではなく、日本人のアイデンティティーを追求すれば、縄文土器に着目することになったと思います。

yoku様 ニューギニアの仮面をお持ちなのですか?材質はやはり木なのでしょうか?カビが生えるとは、乾燥が不十分なのでしょうか?ニューギニアの方が、遥かに湿気が多いのではないかと思われますが。神の彫刻まで。きっと、yokuさんの部屋はシャーマンの生活しているような空間なのでしょうね。
by アヨアン・イゴカー (2008-05-10 00:30) 

春分

モリジアニはあまり好きではないので、あまり気にかけていませんでした。
でも、見ると発見があるのだろうと思います。うーん、行くべきか?
by 春分 (2008-05-17 17:13) 

うらら

モディリアーニ といえば、「モンパルナスの灯」という映画が
有名です。今から50年くらい前の映画ですが、
当時、フランス映画・演劇界きってのイケメン 、ジェラール ・フィリップが
モディリアーニを演じ、ジャンヌはこれまたムード満点、掛け値なしの美人女優、アヌーク・エーメがやりました。

わたしは、小さい頃にテレビで見ただけなのですが、
白黒の全体的に暗い映画ながら、ふたりの陰影ある表情が
長く記憶に残っています。

機会があれば観てみてください。


by うらら (2008-06-14 20:19) 

アヨアン・イゴカー

うらら様 コメント有難うございます。
『モンパルナスの灯』テレビで以前見たことあります。モディリアーニが売れない時代の場面。カフェーか酒場で「モディリアニ、モディリアニ!」と言いながら自分のデッサンを売り歩くが、皆がいらないという。その中で一人だけ金をくれた男がいたが、彼から絵はいらない、と言われる。ここが強く印象に残っています。
by アヨアン・イゴカー (2008-06-15 01:48) 

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