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劇団木馬座の思い出 補遺 [劇団木馬座の思い出]

 「劇団木馬座の思い出」は小説のようなものにしてみようと考えている。構想を練るのが楽しい。既に書き上げた文章は、約百ページほどあるが、更に追加しなければよく分からないと思われる部分もあるので、20行×40字で、百五十ページ以上になるかもしれない。時々、呆れられるのだが、どうして読まれないかもしれない文章を書くのか。自分の為、そうしなければいられないからそうするだけ、それだけのことなのだ。
 heidi & alm DSCN3194.JPG今日は、演出家・振付師小森安雄先生の息子さんから頂いたパンフレットから、2枚の写真を紹介したい。『はくちょうのみずうみ』の時には、伯爵の面を巡って、社長に対して大いに反発した私だったが、結果的に一から作りなおしたその面も褒められたのだから悪い経験ではなかった。むしろ、衝突することによって、他者の意見を知ることによって、より高次な行動ができることになるのだ、と今は思う。左の写真に写っている白髪の老人が私が作ったアルム爺さんである。この仮面を作ったのだが、兎に角頑固で、怖くて、自分自身の世界を譲らない人物、そんな思いを込めて作った。このアルム爺さんの初代を演じたのはT君だった。一度書いたとは思うが、彼の演技は形ばかりが目立った。演出家はそれほど強く言わなかった(駄目だしをしなかった)のだが、私は本番が始まってからも、彼の怒りの演技には表面的な演技しか感じられない、と執拗に舞台が終わると注文をつけた。何しろ台詞を読んだ声優の方々が、代表のSさんに怒られながら、指導されながら必死に録音したテープなのだから、それに見合った演技でなければならない。私のしつこさに流石に彼も腹を立てて、その怒りを怒りの演技にぶつけた。それが迫真の演技になっていたので、その公演後、すぐに「とてもよかった。」と彼に言った。彼も満足そうだった。後で本を読んだり、ビデオを見て知ったことだが、黒澤明監督や内田吐夢監督なども、俳優をぎりぎりまで追い込んで迫真の演技になったところを撮ったそうで、このやり方には一理あるのだろうと思う。俳優は一時的には犠牲者になるかもしれないが、それを乗り越えれば、より高次の演技をすることができるからである。『飢餓海峡』では伴淳三郎が名演技をしていると思ったが、そこに至るまでに監督に徹底的に演技を否定されたようである。その話を知り、なるほどと思った次第である。
heidi mokubaza DSCN3193.JPG もう一枚の写真は、山羊の白鳥さんと小熊さんが下手側に写っている。この白い方を私が作製した。演出家としては、本物の山羊に近い小道具が欲しかったのだが、私たちが作ったのは、キャスターのついた台に乗せた、脚や首が可動になっている山羊の作り物だった。静止画像には耐えるが、動画としては耐えない。
 演出家の考えはとてもよく分かるが、時間的制約もあり、どうしてよいか分からなかったので、O氏に相談し、このようなものを作ってしまった。今なら、体内にモーターを入れるなりして、ペーターやハイジが彼らを放っておいても自分で動いているような山羊を作るかもしれない。
 この作品の舞台美術(大道具)は長嶋社長のお嬢さんが担当した。絵を描くのがとても早い人で、バックドロップの為の絵、小道具に使った大きな絵本(1ページ3×6尺)なども短時間のうちに完成させていた。同じ、武蔵野美術大学油絵科出身のS君も、舌を巻いていた。「俺には、あんなに短時間で描けないな・・へへへ」と。
 ※この舞台写真のハイジはYさん、ペーターはNさん。Nさんはピーターパンの役、『スサノオのぼうけん』のスサノオ役他も担当。


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補遺 初めての、しかし素晴らしい出会い [劇団木馬座の思い出]

 今日2月11日の土曜日は、新宿で劇団木馬座作品の多くを演出と振り付けをされていた小森安雄先生の息子さんにお会いした。私のブログに書き込みをしてくださった為に実現した出会いだった。横顔を拝見していると、やはり親子なのだなと感じる。
 駅近くの喫茶店で、二時間ほど劇団の思い出話をすることができた。音楽を担当されていた先生方(斉藤恒夫、小森昭宏、越部信義)、声優をされていた方の何人もが亡くなっていることを知る。そして、懐かしいパンフレットなどと一緒に、貴重なビデオ作品2本(ベータ版)をDVDに焼きな直したものを頂snow white mokubazaDSCN3192.JPG戴した。パンフレットは私の名前が制作助手あるいは演出助手として記載のあるものを選んで持ってこられたのことで、そのお気遣いが嬉しい。頂いたDVDニ本の内容については、改めて記事にするかもしれない。兎に角三十年以上前の作品が映像で見られるというのは、なんとも感慨深い。若かりし頃のことをあれこれと思い出す。
 劇団の長嶋武彦社長は出版業界の出身だった為だろうと思うが、木馬座から月刊誌『もりのこ』という雑誌を発行した。その月刊誌も3冊頂いたのだった。その中に私が制作した仮面や小道具の舞台写真が掲載されていたので、紹介しておきたい。
 左の写真は、『しらゆき姫と七人のこびと』の一場面。舞台背景美術を担当したのは一緒に入社したOKさんで、彼は既に別の記事でも書いておいたように『しらゆき姫と七人の小人』では、白雪姫の仮面、森の小人達の仮面を作った。この写真の右側にある大きな口を開けた顔の形をしているのは、壁の鏡で、この原画もOKさんが描いた。大道具の製作は「かにや」だったと思うが。全般的に美しい舞台背景だった。衣裳も、私が木馬座に在籍していた中では、この作品の物が最も美しかった。

※かにやは新橋演舞場にあったと思うが、一度しか行ったことがないので、曖昧である。『シンデレラ』の大道具の一部、王宮の階段の補修を依頼していたのではなかったかと思うが、その大道具を、新運転という運転手組合所属のKさんが運転する4トントラックに一緒に乗って受取りに行ったのではないかと思う。
 
 そして、私が作ったのはこの写真の中央にいる妃の面である。嫉妬に狂う場面では口が裂けたように大きくなる。これも既に以前の記事で書いているように、仮面の内側に数ワットの電球を10個ほど並べて電圧を上げて内側から口裂け女のような口の形を浮かび上がらせる仕掛け。この妃の役をしていた女優は、電圧が上り光度が増すと、仮面の中の温度が上って怖いと言っていた。その人は、今は福島で独特なパフォーマンス集団を率いている。
 鏡はハーフミラーになっていて、「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だい?」と妃が尋ねると、鏡の裏側の照明がフェイドインし、鏡の裏側に置いてある白雪姫の顔が見えるように照らし出す仕掛けだった。
 
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劇団木馬座 『ピノッキオ』より「操り人形たちの踊りの音楽」 [劇団木馬座の思い出]

SSCN2916.JPG劇団木馬座の音楽を公開。この曲は『ピノッキオ』の一場面。火喰い親方が行っている人形芝居の操り人形たちと
ピノッキオが一緒に踊る曲。

ある日、制作室にあったロッカーの中を見ていると、一本の「ピノッキオ」と書かれたカセットテープがあった。聴いてみると、録音してあったのは、作曲者の小森昭宏氏が演奏していたのかもしれないが、操り人形達の踊りの曲で、ピアノ独奏版である。ピアノだけでも充分に楽しくなってくる曲だった。
YouTubeのurlは以下の通り。
https://www.youtube.com/watch?v=TmPBEOXjwMk&feature=youtu.be

左の写真は、木馬座のパンフレットに載っているピノッキの舞台写真。ロバになったピノッキオ。白い煙はフォグメーカーによって後ろから噴きつけられているものと思われる。右側にいるのは、ピノッキオが売られてゆく曲馬団の団長と道化師。
尚、団長が履いている長靴は、神田屋靴店から借りたもの(貸衣装ならぬ、貸し靴)と聞いている。私たちが入ってからは、経費の削減もあったが、靴も借りないようにして、革をゴム長靴に貼ったり、拍車を取り付けたりして作った。
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劇団木馬座『はくちょうの湖』より「姫達の踊り」Youtube [劇団木馬座の思い出]

20150811 01DSCN2818.JPG今日は、引き続き劇団木馬座『はくちょうの湖』より、姫たちの踊り。歌詞は正確に思い出せないが以下のような感じ。

野ばらよ野ばら
〇〇に清く
娘達よ
早く見に行こう
今は春
私たちの国は美しい

苺よ苺
緑野に赤く
娘達よ
早く摘みに行こう
今は春
私たちの国は美しい
※一部間違っていることを承知の上掲載。
 先日公開した『はくちょうの湖』主題歌の編曲の出来がよくなかったので、こちらの歌に取り組んだ。明るくて楽しい曲なので好きな曲だった。楽器の編成もどのようなものを使っていたのか思い出せないので、自分の中に残っている印象で編曲した。いつも通り、楽器を足したり、結尾部を追加したりしている。民族音楽風に響くように、バイオリンの独奏やリコーダーで旋律を歌わせた。また、コーダの部分ではチェロの低音を執拗に響かせた。音源としては生に近いVienna Instruments SEでViolin, Celloと、シンセサイザー音のYAMAHA MU2000でマリンバ、リコーダー、アコーディオン、ウッドブロックを使用している。Viennaのバイオリンはstaccato音にすると音量が大きめになるので、調整が難しい。そのため一旦録音した物を再生し、音の強弱配分が期待どおりになっていないところを調整した。結局4回以上。
 踊っている姫たちの絵は、モデルなしで描いたので、特に衣装にはその知識のなさが露呈している。実際の衣裳はラメもはいっていてもう少し豪華だったと思う。

 尚、Youtubeの作品としては、画像に文字が欲しかったので、英語の歌詞を一番だけ書く。

https://www.youtube.com/watch?v=6_v-xhLGfeI&feature=youtu.be

 


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劇団木馬座『はくちょうの湖』主題歌 [劇団木馬座の思い出]

  今日は、昨晩に編曲を始めた『はくちょうの湖』の編曲を終え、Youtube用に加工する。木馬座の『はくちょうの湖』は新作に最初から従事することになったので、私にとって、多くの思い出が残っている芝居である。と言いつつも、入ったばかりの新米で制作部では最年少なので、誰もまともに取り合ってくれない。口惜しい思いも沢山した。
 それでもやはり、今思い出せば、微笑ましく楽しいことばかりである。
 青春時代にやっていたことがその人の人生を方向付け、形作る、と言っていたのは木馬座社長の長嶋武彦氏であるが、実に正しい、少なくとも私にとっては、考えだと思う。十代から二十代にかけて自分がやっていたことが、今の自分の方向を決めている。
 今回の編曲は、楽譜もなく歌詞もない(台本がない)ので、すべていい加減な記憶に頼っている。以前に公開した『ねむり姫』の姫の踊りの音楽と同じだ。いずれにしてもパート譜があるわけではないので、和声も対旋律も自分で書かなければならない。それもいい編曲練習になると思っている。
 木馬座版『はくちょうの湖』に出てくるオデット姫の妹達がオデットと踊る音楽も可愛い曲なので、その内に気が向いたら編曲をするかもしれない。SSCN0108.JPG

https://www.youtube.com/watch?v=AA1-57K4l8I&feature=youtu.be

 


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劇団木馬座『ピーター・パン』Youtube [劇団木馬座の思い出]

 木馬座についてはこのところ何もしていなかったので、劇団木馬座の『ピーター・パン』を編曲することにする。この劇の音楽は『げんこつ山のたぬきさん』などを書いた小森昭宏。他には『ピノッキオ』の音楽も担当されていた。この方は医者でもあるのだと同姓の演出家小森安雄先生が言っていた。小森昭宏の曲は明解で、明るく楽しい雰囲気が芝居にはよく合っていた。DSCN1600.JPG
 舞台美術は駒宮録郎、脚本長嶋武彦・稲坂良弘、演出早野寿郎。このピーターパンの仮面制作は劇団木馬座制作部員。頭髪に使っているのはなんとダチョウの羽で、ピーターが動き回る度にふわふわと優雅に動いた。空中を飛びまわることの出来るピーターに相応しい見事な選択だと感心したものである。海賊フックの仮面は大きく好くできていた。








SSCN1608.JPGhttps://www.youtube.com/watch?v=p-0dFfs4gQg&feature=youtu.be
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『ねむり姫』の歌 - Youtube [劇団木馬座の思い出]

 『ねむり姫』は最初に制作助手として担当した芝居なので、表現は適切でないかもしれないが、初恋の人のように恋しく愛着がある。何度でも思い返すのだろうと思う。目を瞑ると、千葉市民会館の搬入口、舞台裏、楽屋、舞台稽古(ゲネプロ)、照明、客席、暗転幕などがどんどん甦る。
 DSCN2657.JPG『ねむり姫』の美術は石倉欣二さんだった。彼は画家として絵本も出していたし、NHKでも仕事をしていたようだ。その絵は目に特に特徴がある。私の好きなクレタ文明のクレタ美人のようなくっきりとした目である。瞳の上下に二本の横棒が引かれている、そういう絵である。そして、衣裳は岸井克己さんと言う方である。お会いしたことはないが、美しい衣裳を作る方である。姫の衣裳はとても可愛らしく、踊りを踊る時は薄い桜色のドレス、紡ぎ車の針に刺されて死んでしまう時には水色のジョーゼットのドレスである。後日、『白雪姫と七人の小人』の衣裳も担当されたが、非常に立派な衣裳で、衣裳だけでも充分に楽しむことの出来る豪華なものだった。
 前回はねむり姫の主題歌を録音したので、今回はこの『姫の歌』を録音することにした。本日挿絵を描いたが、参考になるものが殆どないので苦労した。花の咲いている樹木は、石倉さんの美術を参考に再現しているが、姫の面(Fさんが作成した)やドレスのデザインなどは良く思い出せないので、大分異なるかもしれない。参考までに、以前に書いた文章のurlは下記の通り。
http://boxtreenh.blog.so-net.ne.jp/2008-11-24

そして音楽のurlは下記の通り。
http://www.youtube.com/watch?v=z1UXlQgVrPc&feature=youtu.be


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劇団木馬座の思い出 - 『シンデレラ』の主題歌 [劇団木馬座の思い出]

 懐かしさに勝てず、つい編曲の作業をしたのは昨日。『シンデレラ』の主題歌でYoutube作品にすることにした。短い主題歌には歌詞は3番までついているが、このYoutube用の曲では1回多く、4回繰り返す。曲はABCAと言う構成。最初と最後が合唱のみで、間の2つは変奏曲風である。原曲はもっと素直な曲なので、少し気がひけるのだが、原曲のレコードもなく、自分風に書きなおすしかないのだ、こんな時は。今回の音源はすべてYAMAHA MU2000。サキソフォンはなかなか本物らしい音になっていると思う。舞台監督もやっていたため沢山書き込みをした台本は劇団に渡してきてしまった。返す返すも残念である。DSCN2642.JPG台本があれば記憶を辿ることもできるのに。嗚呼。台本がないために、再現が充分にできず、歯がゆい。
 写真は、お城の舞踏会に出かける話をしている継母とその娘達、それを見ているシンデレラ。美術は森やすじだが、仮面や衣裳はその舞台美術原画を元に劇団木馬座の制作部が製作している。そのため、大道具は森やすじ美術による一貫性があるが、仮面は製作している美術担当によって少しずつ個性がでている。志向や癖が出て面白い。因みに一番左の娘は、次姉であるが、太っているので、アンコ(肉襦袢のようなもの)をつけてから衣裳を着ている。
youtubeのurlは下記の通り。
http://youtu.be/FYiwZ8_Sx04

過去の参考記事は以下の通り。
http://boxtreenh.blog.so-net.ne.jp/2008-10-13

 


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ねむり姫の主題歌 [劇団木馬座の思い出]

 3日ほど前に劇団木馬座のページを訪れてくれた人が居たので、久々に劇団木馬DSCN2621.JPG座の情報を少し更新しようという気になった。そこで、恐らく訪問してくれたFさんが作成したと聞いている主役たちの仮面の出ている『ねむり姫』の主題歌を音にすることに決めた。残念ながら当時の主題歌を録音したレコードは持っていないので、耳で覚えているままの旋律を基に編曲した。そして、これはもっと残念がことなのだが、当時の写真が殆どなく、小さな写真を拡大して使ったので、折角の仮面や衣裳もその美しさが充分に表現されていない。

 歌詞は黒河 乙郎

ねむりの塔の銀の星
ねむりの森の小鳥たち
夢のお庭の仙女たち
みんなで花の輪作ってる
みんなで花の輪作ってる

http://www.youtube.com/watch?v=zvlZ69536g0&feature=youtu.be

関連記事:
http://boxtreenh.blog.so-net.ne.jp/2008-11-16


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劇団木馬座の思い出 補遺その3 [劇団木馬座の思い出]

  劇団木馬座の思い出 補遺その3 2014/03/09 日曜日 

 先週日曜日に、江東区文化センターで劇団時代の女優Mさんに久々に会うことができた。それ故に彼女の思い出を書いておくのも一案だと考えた。

 彼女はモリエールが好きで、それを芸名にしていた。初めてその名前を見た時、珍しい名前だと思ったが、由来を聞いてなるほどいかにも女優らしいつけ方だと納得する。尤も、自分はモリエールよりもシェークスピアの方が好きだが、などと胸の中では言いつつも。

 Mさんに初めて会ったのは、渋谷の東横劇場だった。彼女は『シンデレラ』の継母の二人娘の長女役を演じていたと思う。体の線の細い人だった。彼女は人騒がせなことを平然とするちょっと変わった人だった。東横劇場の最終公演が終わった後、楽屋で彼女の遺書が発見されて、楽屋中で騒ぎになった。制作のM田さんも、一寸不安そうだった。書かれた文章は間接的な表現なので、遺書とも取れたが、そうでないものとも取れたので、判断がしかねたのだった。しかし、彼女を知る女性が「多分、また、悪戯でしょ。」と言って、その日は皆帰った。そして、後日、何事もない顔をして彼女が現れた。こういう文章を書く人には、日常の世界とは異なる何か詩的なものがあって、やはり魅力を感じた。面白い人だと思った。

 その数年後だったと思うが、彼女は『白鳥の湖』のオデット役を演じたことがあった。演技は全く問題なかったが、踊りについては優雅さが欠けた。踊りの練習を子供の頃から続けていない人であれば当然のことであり、一朝一夕にそのようなしなやかさなど表現できる筈もない。この事実は、私がバレエの基礎練習の重要性について認識する切っ掛けとなった。それはオデット姫とその妹二人が庭で音楽に合わせて踊る場面だった。オデット姫と一人の妹はバレエの経験がない。もう一人の妹はバレエ経験者である。この三人が輪になって踊った時、私にはその腕と指の動きで、バレエ経験がある女性だけが際立って上品に見えた。指の先端まで意識が届いていて、優雅なのだった。踊りはこのようでなければならない、と。一方、オデット姫と妹は、確かに小森先生の振り通りなのだが、肘も指もその動きが硬すぎるのであった。上品な姫を演ずる為には、踊りの練習も不可欠なのだと思った。木馬座では殆どの場合、主役のお姫様役をバレエダンサーが演じていたため、それとの比較もあったのだろうとは思うが。反対に、バレエダンサーが主役を演じると、その演技は「お約束」が多くなり、見ていて分かりやすいがリアリティに欠けるという欠点があるように感じた。

 演技という点では、Mさんは好かった。彼女はパントマイムも練習していた。それが一番有効だったのは、ピノッキオの役だった。まず、彼女は痩せていたのでピノッキオに相応しかった。彼女は出来るだけ脚を細くするために、普段脚にビニールを巻くなどしていたようで、それを真似する女優もいた。尤も、それがどのような効果があるかは知らないが。そして、パントマイムをやっていたので、人形のような動作はお手の物だった。だから、ゼペット爺さんが作った出来立ての木の人形が歩く練習をしたりするところは、ナンバ走りのような動作をしたり、脚をからませたり、いかにもぎこちない歩き方で演じて見せる。この人形の動きは、最後に人間の少年になるところで、魔法が解けたように無くなるのである。その変化をしっかりと演じ分けられる人だった。

 あれは四ツ谷の双葉学園同窓会の稽古場でのことだった。『ピーターパン』の練習の時だったろうか、誰かがパントマイムの出来るMさんに、適当に思いついた台詞を言うので、それを身振りで表現して見せて欲しいと言った。彼女は喜んでそれに応じた。台詞に合わせて、彼女は大きく腕をぐるぐる振り回したり、体を動かしたりする。皆でそれを見ていたが、途中までは実に上手に振りをつけて見せたので、満足していた。私も、ああいうことができるのは大した物だと感心した。

 尚、その後彼女はイベント業務管理士一級の資格を取得して活躍している。もう二十年位も前のことだが、埼玉県北葛飾郡松伏町の田園ホールエローラでオペラ『不思議の国のアリス』を上演し、演出を担当していた。その時の自信に満ちた生き生きとした姿を覚えている。

 ※ちなみに、田園ホールエローラの名前の由来は、芥川也寸志の『エローラ交響曲』である、とホールのどこかに書かれていた。


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