SSブログ

伯父吉江新二の思い出 その2 [吉江新二の思い出]



伯父吉江新二の思い出 その二  2016/08/27  土曜日



 もっと早く伯父の思い出を書く積りでいたのだったが、遅くなっている。理由はその肖像画である。病床の写真を元に、二枚目のデッサンをしているのだがどうも線が気に入らないのである。伯父貴が許してくれないだろうと感じるのだ。「なんだ、こりゃあ。もっと正確な線を引かなきゃだめだろうが。土台、俺もっとハンサムだろう。大体、骨格の把握が不正確なんだよ。」等々と言われているような気がして、手が止まってしまう。ここでデッサンの絶対量の少ない私は挫けそうになるが、挫けた段階で制作の放棄になり、絶対に放棄だけはしない。諦めないで続けていると、必ずその結果案外好い作品になることを経験したからである。それもここのところ、連続して経験している。そしてそうこうしている内にデューラーの『ネーデルラント旅日記』(岩波文庫)を再開し、この本に載っている絵を見て、殴られたような気分になるが、起き上がってデッサンを続行している。

 結論から言えば、昨日デッサンについてはもう一枚新たに描き始めた。今までそこそこ時間を掛けたものに手を加えるよりも、新しい視点で描き直した方がよいと判断したのである。そして、既にかなり出来上がってデッサンの方には水彩で色をつけて、別の手法による試みをしてみることにする。小学校の頃は下絵よりも上塗りの方が得意だったので、そちらに切り替えてみた。

 吉江新二 「建物のある風景」1956DSCN3108.JPG今日ここに紹介するのは、伯父が三十七歳の頃に描いた作品『建物のある風景』。色、配色、形、線、構図など絵画にはいくつもの要素があるが、これらの使い方に自分と共通項があるかどうか、それが好き嫌いを決めるのではないか。劇団に入った時に、詩も小説も同様だったが、絵画についても全く自分独自の判断ができなかった。一緒に入社した美大の油絵科を卒業したO氏に、どのように判断したらいいのか聞いたことがあるが、彼の答えは不明瞭だった。じゃあ、誰が好きですかと言うと、レオナルド・ダ・ヴィンチ、彼のデッサンは誰にも超えられない、と言う。また、ボッティチェリのビーナスが好きだとも。高階秀爾『名画を見る眼』(岩波新書)などを読んでいた私は、絵そのものは好きなのに、美術とは何かが分からなくなっていた。自分が必ずしも好きではない画風でも名画として紹介されていたからかもしれない。伯父がどのような判断基準を自分の中に持っていたのか、聞いたことがないので不明である。完全な抽象に移行する前の、過渡期の作品のように見える。抽象絵画には二種類に分ける分類方法も可能であるように思う。一つは具象的な、具体的なものを見ながら、想像しながらその一部を強調して絵として構成してゆく。もう一つは、初めから抽象的なものを想像しながら、形や色や線、構図などを気の済むままに描いてゆくもの。この分類で考えると、この作品は前者である。

 ところで、喪主挨拶の時に伯母が語っていたことが印象的である。「あたしの大学の先生が家に来たことがあって、あたしの作品が沢山並べてあるのに、その先生彼の作品の方ばかり見ているの。あたしの方がまじめで、一生懸命勉強して、作品も作っているの。彼の方は寡作だから、あんまり描かないの。それなのに・・・」嬉しそうでもあり悔しそうでもあった。伯母も画家であり、個展も銀座などで時々行っている。最近は、絵画の平面的な表現に飽き足らず、立体的な作品も作っている。「あたし、鋸なんかも使うのよ。」楽しい女性である。


nice!(42)  コメント(9)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 42

コメント 9

mimimomo

こんばんは^^
伯父様の絵、色に惹かれます。
芸術一家でいらっしゃいますね。
by mimimomo (2016-08-27 19:28) 

般若坊

こんばんは。アヨアン・イゴカーさんは、芸術(絵画)のご一家なんですね。
ボッティチェリのビーナス あまりにも有名です。それにダビンチのデッサン・・・本当に写実的で それでいて芸術的です。
youtubeにも、ボッティチェリのビーナス画像がありましたので、モーツアルトの曲とともに貼り付けておきますね。 ^^
https://www.youtube.com/watch?v=yjFKHy7P7UU
by 般若坊 (2016-08-27 20:00) 

lamer

ボッティチェリは大好きです。
繊細で優雅な感じに惹かれました。
共通なところが在って嬉しいです。
by lamer (2016-08-29 00:23) 

Enrique

良い絵だと思います。
抽象なのでしょうが実にしっくりと自然な風景画に感じられます。
アヨアンさんの絵との共通点は。。。
俄にはわかりませんが,題材によっては雰囲気が似ると言うことはあるのかも知れません。
ちりばめられた心象風景的な人や木は,
アヨアンさんの絵の中にも見たような気もします。
by Enrique (2016-08-29 06:03) 

yuyaさん

芸術的な雰囲気のある家系は羨ましいですね。
肖像画頑張って下さい。私もついこの間、友人夫妻から肖像画を依頼されて描きました。技術的困難ばかりで苦しみましたが、大いに学ぶ事が出来て本当に良かったと思っています。

by yuyaさん (2016-08-29 18:30) 

Kanna

伯父様の絵、素敵ですね!色合いや雰囲気がとても好きです^^
ここだけの話ですが(笑)、伯父様の作品、今の私の年齢とほぼ同じ年齢で描かれたという事に衝撃を受けましたorz
私も伯父様のように、柔らかく品位のある素敵な雰囲気の絵が描けると良いのに^^;
肖像画、とても大変かと思いますけれども、ぜひ頑張ってください!(*^^*)
by Kanna (2016-08-31 16:40) 

momotaro

いい絵ですね。
芸術一族なんですね、素晴らしい。
ところで拙ブログコメント欄に、意見広告の紹介をお寄せいただきありがとうございました。
自民党の憲法改正草案は誠にひどいものでとても放置できません。
共に闘いましょう!
by momotaro (2016-09-01 07:10) 

アヨアン・イゴカー

森田恵子様、Mitch様、ChinchikoPapa様、めぎ様、schnitzer様、mimimomo様、夢の狩人様、般若坊様、扶侶夢様、majyo様、miffy様、ぼんぼちぼちぼち様、lequiche様、ユメクレア様、ビタースイート様、りんこう様、carotte様、ネオ・アッキー様、めもてる様、ユキママ様、八犬伝様、クリンクリン様、シラネアオイ様、Nobuzo様、lamer様、しゅわっち様、コミックン様、nandenkanden様、caveruna様、剛力ラブ様、dumbo様、kohtyan様、SILENT様、せとっこ様、月夜うずのしゅげ様、かずのこ様、toraneko-tora様、芝浦鉄道様、常武鉄道様、momotaro様
皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2016-09-04 14:13) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
コメントありがとうございます。
初期の作品は、色の種類は多くはないのですが、きれいな配色で
私も好きです。

般若坊様
url有難うございました。早速見ました。
このモーツァルトのピアノ協奏曲、映画の『オーケストラle concert』の冒頭を思い出します。

lamer様
私もボッティチェり好きです。彼の作品は、更に発展させることができ、いろいろな題材にもなると思います。

Enrique様
コメント有難うございます。
絵に関しては、伯父とは共通点は、自分では、殆どないのではないかと思っています。ただ、捻くれた発言をしてみたり、雲をつかむような話をしてみたり、集団から一歩はなれたところから見ているような、そういうところは血を受継いだのではないかと勝手に思っております。

yuya様
肖像画、難しいですね。先ずある程度似ていなければならない、次に似ているだけではなくその人の特徴(性格、生き様など)を表したい、そして、他者ではなく自分が描いた肖像であることがすぐに分かること。時間が掛かります。

Kanna様
お気に召したようで嬉しいです。
画風は、少しずつ変わります。最晩年には仙人の描く様な絵になってしまいました^^
肖像画、頑張ります。

momotaro様
芸術一家と言うことでもないのですが、身内にそういう雰囲気があることが自分自身に影響を与えたことは間違いありません。

あの改正草案の危険度・酷さ(ナチスの手法に酷似、言論の自由の否定につながる可能性)については、升永弁護士他の専門家がずっと警鐘を鳴らしてくださっているのですが、残念ながら国民全般には十分に伝わっていません。
平和と自由を愛し、守る者として、頑張りましょう。

by アヨアン・イゴカー (2016-09-04 14:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0