SSブログ

童話『提琴弾きのアヨアン』その2 [詩・散文詩]

 挿絵を描くのには結構苦労する。自分の気に入ったような構図にならないことが多いからだ。今日も随分苦労して、やっと一応描き上げた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

第一夜 近所の野良猫がやって来たこと

 

 雲が空に出ていて、じきに雷でもなりそうなある夜のことでした。玄関の扉を叩く音がします。こんな時間にやってくるのは、私の親友のホーカッサン君にちがいあるまいと思って私は「どうぞ。」と言いました。

20140812tuesday.JPG しかし、扉を開けては行って来たのは親友ではなく、私が呼んでも横目で睨んで逃げてゆく野良猫シャブランでした。どうしたものか、この夜のシャブランは入り口に二本足で立っています。

「今晩は。アヨアン先生。」

先生と呼ばれて少し得意になった私はにやりとして言いました。

「今晩は、シャブランちゃん。何か用かね。」

「えぇ、ちょっと、先生にバイオリンで弾いていただきたい曲があって来てしまいました。これ、なんですが、お礼の代わりに持ってきました。」と大きなゴーヤーを前に置きました。

「おいおい、それ隣の師匠のところのゴーヤーじゃないか。師匠が時々野菜泥棒が出るって言っていたけど、犯人はおまえさんかい。」

「め、滅相もない。それは、カラスの大将でしょう。あっしは、今日初めてでがんす。大体、猫は野菜食べないでがんす。」

「そういうことにはなっているが、西瓜が好きな奴も、トマトが好きな奴もいるって聞いたことがあるぞ。おまえさんたち、意外に個性派が揃っているようだから。

まぁ好いか、お土産を持ってくるたぁ、猫にしちゃぁ気がきいてらぁ。ところで、何をご所望かな。」

「ショモウ、何です、それ。」

「何の曲を弾いて欲しいのか、そう尋ねたんだよ。」

「最初からそうおっしゃればいいものを。あの・・・チャイコの『アンダンテー・カンタビレ』をお願いします。」

「猫の分際で、チャイコとは生意気だ!チャイコフスキー様と言うべきである。が、それは別として、君はなかなか趣味がいいねぇ。お育ちがいいねぇ。じゃぁ、早速弾いてやろうじゃないか。」

私は、提琴を取り出すと、まるでクライスラーかイツァーク・パールマンが弾いているような気になって弾いて見せた。自分ではそこそこいい音が出ていると思っていたのでしたが、猫君に感想を聞いてみると、こんなことを言われてしまいました。

「先生、またやってきます。」

「感想は。」

「今は、何も申上げることができません、怒られてしまうので。では、おやすみなさい。」

シャブランはそういうと、四足であっという間に扉の隙間から飛び出して行ってしまいました。

 

 私は、すっかり打ちのめされたようになって、暫くぼんやりしていました。

 


nice!(35)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 35

コメント 3

Enrique

イメージ通りになるかどうかがご苦労なところでしょうか。宮沢賢治へのオマージュとしても,挿絵はアヨアンさんタッチですし,お話のほうも独自のメルヘン世界だと思いました。
by Enrique (2014-08-13 05:43) 

アヨアン・イゴカー

夢の狩人様、kurakichi様、カエル様、ChinchikoPapa様、kinkin様、makimaki様、Enrique様、シラネアオイ様、かずのこ様、ビタースイート様、yoku様、Hiro様、般若坊様、くらま様、YUTAじい様、glennmie様、doudesyo様s、めもてる様、ワンモア輪馬、carotte様、(。・_・。)2k様、youzi様、アリスとテレスさ、亜。lequiche様、ネオ・アッキー様、sig様、mimimomo様、えれあ様、JR浜松様、かっぱ様、miffy様、海を渡る様、kiyo様 皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2014-08-18 23:18) 

アヨアン・イゴカー

Enrique様
挿絵は、結構想像している、期待している通りにならないことが多いようです。(他人事のようですが、勿論、自分のことです。)むしろ、結果として出来上がった物、そこに収束してゆくような印象があります。
by アヨアン・イゴカー (2014-08-18 23:21) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0