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今様伊曾保物語その7『蟻とキリギリス』 [今様伊曾保物語]

 昨日は、吹雪となったので、夕方と夜、雪掻きをするのに2時間以上費やした。今日も雪掻きをする。昨日35センチくらい積もった雪も、暖かい空気に曝されて、どんどん融け始めていたが、車の通った後の道路の真中には雪が15センチ以上の厚さで積もっている。それをスコップで道の脇へ避けた。その作業に一時間以上時間を使った。連日の雪掻きで体のあちこちが筋肉痛である。とても好い運動になったし、大気中の埃もこれで雪に吸収されたかと思うと、すっきりした気分である。
 さて、本日は、今様伊曾保物語の第7話。雪掻きが終わってから、挿絵を描く。赤いボールペンで下書きし、水彩絵具と色鉛筆、クーピーペンシル、および黒のボールペンで仕上げる。


今様伊曾保物語 その七 蟻とキリギリス     
2014/1/1 水曜日

 

 夏です。蟻達が汗水流して働いています。その傍らではキリギリスが楽しそうにバイオリンを弾いています。

2014020901.JPG「今、おいらはビブラートの練習をしているのよ~。随分上手くなってきちゃったりして。」

その姿を見て、蟻が非難して言いました。

「キリギリス君ね、どうして僕たち蟻がこんなに暑い日でも汗水垂らして働いているのに、そうやって能天気にバイオリンなんか弾いていられる訳?」

「芸術家にそのような質問は愚かですよう。芸術は長く、命は短い。だから僕は、少しでも技術を上げて、僕の芸術を完成させたい訳ですよ。それより、君達こそ、なんだってそんなに齷齪働くんですか。」

「決まっているでしょう。雨の日に備えてと言う表現があるように、僕たちは冬の食べ物がなくなってしまう時に備えて、蓄えているんですよ。」

「そうですか。それはご苦労。御精がでますな。結構、結構、頑張ってくれたまえ。僕はバイオリンの練習をするよ。なにしろ僕の仕事は芸術だからねぇ。」と言って、バイオリンから手を放しません。

 

 やがて秋になります。蟻達はそれこそ収穫で大忙しです。一方、キリギリスはバイオリンを弾いてはその音に聞惚れています。蟻達が嫌味を込めて言います。

「好い音色ですね。その音が、冬も同じ音であれば、きっと本物の芸術ですな。」

「有難う、お褒め頂き。」とキリギリスは嬉しそうに言って、本心で喜んでいます。でもやっぱり、蟻達のように額に汗して働くことはしませんでした。

 

 そして、いよいよ冬がやってきます。雪が降っています。キリギリスの家には何のたくわえもありません。ですから、すっかり御腹が減っています。そこで、恥を忍んで、蟻達の暖かそうな家の扉を叩きました。

「蟻君たち。僕は、まぁ、早い話が、腹が減って、肝心のバイオリンの練習が思うように出来なくなってしまっているんだ。で、相談だが、何とかできるように食料の援助をして頂けないものだろうか。」

蟻達はさも嬉しそうに笑って言いました。「僕たちが、夏、秋汗して働いている時、君が僕たちにに何て言ったか覚えている。」

「あぁ、勿論覚えているともさ。」

「だったら、恥ずかしくてここへは来られない筈さ。君ぃ、自業自得と言う言葉を知っているでしょう、自業自得。」

「分かった。僕は、芸術に生きるよ。お邪魔しました。さようなら。」

 

 キリギリスは、芸術仲間のコオロギやクツワムシの所へ行って見ることにしました。

 2014020902.JPG

 コオロギの家の扉からは、何だか楽しそうな賑やかな声が聞こえてきます。キリギリスは扉を叩きます。直ぐには返事がありません。大きな音でもう一度叩きます。

「一体、誰だい。扉が壊れてしまうじゃないか。弁償もんだぜ、弁償もん。」と言って、コオロギが扉を開けてくれます。

「あぁ、キリギリス君か。なんだい、しょぼくれちゃって。さぁ、さぁ。入りたまえ。」

中へ入ると、そこではコオロギとクツワムシたちが酒盛りをしている最中だったのです。

「随分、景気よく酒盛りしているんだね。」とキリギリス。

「そりゃぁそうさ。もう冬になると、食べるものがないから、樹の洞にあった猿酒を持って来て、酒盛りしているのさ。酒だって、何にもないよりはましではないか。なっ。何しろ、俺達のような芸術家にとっては、冬は辛い季節だからね。死の控えたこの時期、芸術と酒で、現実逃避する以外にないだろう。さぁ、君も一杯と言わず、何杯もやって呉れ給え。」と並々と猿酒を注いで呉れます。一杯呷るとすっかり元気になったキリギリスは大声で言います。

「僕たちの友情の為に、バイオリンをご披露させて呉れ給え。」

「勿論、大歓迎さ。僕らの名手キリギリス君の演奏を楽しませて呉れ給え。」

キリギリスは早速、演奏を始めます。クツワムシもコオロギもすっかりその音色に酔いしれています。演奏が終わると大きな拍手です。

「ブラボー!ブラボー!天才。見事だ。」

「芸術は長く、命は短い!我等、芸術に生き、芸術に死ぬ。何と美しいことか。」

 

こんな風にして、こちらの家では空元気な芸術家達がそれぞれの楽器やら歌声やらを披露してドンちゃん騒ぎをしています。そして、この楽しさを皆で共有できるようにと考えて、雪の降りしきる外に繰り出して行きます。蟻達の家の前も演奏しながら通ります。「芸術万歳!」と大声を上げながら。

 

 翌朝、皆雪の布団を被って眠っていました。どの顔もお気楽で幸せそうな顔をしていました、とさ。


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コメント 7

Enrique

中々身につまされるお話です。現実逃避して酒盛りする秋の虫達は哀れですが,かといってアリは何が楽しくて闇雲に働いているのかという疑問もあります。秋の虫達はそれを身をもって表現したのでしょうか。
by Enrique (2014-02-09 23:56) 

mimimomo

おはようございます^^
人間の生き様にそっくりですね。
人も虫もそれぞれ。
by mimimomo (2014-02-10 06:38) 

sig

「ただ生きるために食すか。好きなことのために死すか」・・・意味深ですね。
by sig (2014-02-10 20:36) 

t-youha

この話は、たとえ話としてよく耳にしますね。

>どの顔もお気楽で幸せそうな顔をしていました

アリもキリギリスも宿命のままに生きた姿であるとしたいですね。そういう意味で、最後のキリギリスの死にざまも宿命を全うした安らかな姿として捉えたいです。もちろん、夏場のアリはアリでキリギリスと同じように宿命を全うしているのでしょうね。
by t-youha (2014-02-10 23:24) 

Kanna

あああ、なんて切なく胸を締め付けるお話でしょう…。
とても切ないですが、芸術を楽しんで生を全うしたキリギリス、素晴らしいと思います。
私はきっとアリにもキリギリスにもなれない…ああ胸が痛い(笑)
このお話はきっと、読む人の生き方によって様々な意見が出て来そうですね。
ちなみにアヨアンさんはアリですか?キリギリスですか?
by Kanna (2014-02-14 12:47) 

アヨアン・イゴカー

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2014-02-16 23:29) 

アヨアン・イゴカー

Enrique様
生きる為には給料を貰える仕事をしなければなりませんが、その仕事そのものが人生ではありません。その仕事そのものが人生である人は羨ましいと思いますが、その仕事がどのようなものであるかも、大切な問題です。

mimimomo様
大学の時、小説家を志している英文学の教授が、言っていました。「草叢のキリギリスを見ていたら、何だか禅僧のようで、人生を悟っているように見えてきた。」と。見方によっては、人間も虫も変わりませんね。

sig様
万物、存在しているもの、存在したもの、存在するであろうものは全て価値があると思います。それでも、「如何に存在するか」は更に価値を高めるであろうと。しかしながら、更に価値が高いと言う考えは絶対的なものではなく、相対的なものかもしれません。

t-youha様
自分と言う存在は、他者の人生を生きることはできません。どんなにもがいても足掻いても、自己と言う存在から自由になることはできません。全てが宿命であるという考え方もあります。ですから、自分が指向しているところに向かってゆくのが幸せなのかもしれません。

Kanna様
私もどちらかではなく、あえて言えばアリギリスあるいはキリギリスアリです。ただ、いつもキリギリスに憧れていますよ。
by アヨアン・イゴカー (2014-02-16 23:51) 

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