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今様伊曾保物語 その4 狼と子羊 [今様伊曾保物語]

今様伊曾保物語り その四 狼と子羊          2014/1/12 日曜日

 

2014-1-12 no1.JPG 小川を挟んで狼と子羊が立っています。子羊は一匹で小川に水を飲みに来ていたのでした。ふさふさとした柔らかい毛をした可愛い子羊です。一方、狼はなかなか獲物に出会えないものですから、水でも飲んで腹を膨らそうと思ってやって来たのでした。丁度そこで子羊を見つけたのでした。口の中は涎で一杯です。でも、相手があんなに可愛らしい子羊ですので、あんなに弱い者を食べるのは酷いとか、卑怯だと言われるのも嫌だと考えました。大体、偽善者は、体面、体裁を繕うものなのです。そして、尤もらしい屁理屈をあれこれと考えました。

 狼は子羊に言いました。

「おい、俺の水を勝手に飲むなよ。」

「私、まだ飲んでいません。」

「そうか。」

「でも、全体、この小川の水、狼さんのものなのですか。」

「そうさ、俺様がそう決めたんだからな。」

「でも、さっき、ライオンさんも飲んでいましたよ。」

「そ、それは、俺が許したから飲んでいたのさ。つべこべ言うな、子羊め。それより、お前随分毛がふさふさしているな。」

「はい、とっても暖かいんですよ。」

「俺はなぁ、花粉症なんだ。それ故に、そういう毛にもアレルギーがあるんだ。お前の毛が飛んで来ると、実際、酷く迷惑なんだ。だから、俺はお前の毛が一本たりとも俺の方に飛んで来ることを許さんぞ。」

「でも、自分の毛がいつどこで抜けて、いつどこへ飛んで行くか、自分では分かりません。だから、それを止めることもできません。」

「何だと。自分のものは自分で始末するのがここの掟だ。」

「そう言われても、私には出来っこありません。」

「出来っこないだと、何だ、その口の利き方は。」

「あっ、御免なさい。・・・ところで、狼さん、あなたはどうなんですか。」

「俺はそんなことは気にしないさ。何しろここは俺様の場所だからな。」

「そんなのずるいですよ。自分では好くって、他人ではだめだって言うのは。」

「何だ、こいつめ。小生意気なんだ、おめえは。」狼は恐ろしい目で睨みながら、大きな口を開けて、鼻に皺を寄せて唸りました。子羊はすっかり恐くなってメエメエ鳴き始めました。

「メエメエうるさいんだよ。」

「だって、私はメエメエとしか鳴けないんです。」

「これは騒音公害だ。騒音。俺は騒音には滅法弱いんだ。精神的に大いなる苦痛を与えられた。身も心もズタズタにされた。あぁ、おぉ、うぅ。おお、もう俺はお前に対して慰謝料を請求する。まぁ、子羊のおまえにそんなものを支払うことはできまい。よって、物納で良い。」

「ブツノウ。」

2014-1-12 no2.JPG「物納とは、金の代わりに物で払うんだ。俺は今買いたいものがある。それを物で支払ってくれればそれで良い。いいか、俺は腹が減っている。故に俺が買いたいのは、お前のような柔らかい子羊の肉だ。さぁ、慰謝料を物納しろ。」というが早いか、狼は哀れな子羊に飛びかかりました。

 

 あぁ。でもご安心ください。ジュピター神という救い道がありました。ジュピター神は他人にする悪戯が大好きなのです。自分がやられたら、地獄の果てまで仕返しに来る嫌な親爺なのに。ジュピター神は、子羊と狼の間に透明のガラスの壁を作っておいたのです。ですから、狼はしたたか鼻面をガラスにぶつけて、悲鳴を上げました。

 この狼は本当に負けず嫌いでしたから「あんな子羊、不味いに決まってらぁ。今日はとんだ時間潰しをしてしまったわいわいなぁ。」と見得を切って、鼻を舐めながらどこかへ行ってしまいました。

 でも、皆さん、気をつけて下さいね。いつまた現れるか分かりませんから。


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コメント 5

Enrique

>偽善者は、体面、体裁を繕うもの
狼のような言い分は,そこここにありそうですが,弱肉強食ではないのが人間社会のはずですね。

by Enrique (2014-01-12 19:14) 

Kanna

こんなに可愛らしい子羊なのに、言いたい事はちゃんと言っている姿に清々しさを覚えました^^
子羊ちゃん、これからも素直に、ありのままに、食べられないように、生きてほしいなと思いました(笑)
by Kanna (2014-01-13 15:27) 

アヨアン・イゴカー

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2014-01-20 23:03) 

アヨアン・イゴカー

Enrique様
人間である、人間的であるということは、どれだけ自然の状態から人間の考える倫理的に正しい状況に近づけられているかということだと思います。弱肉強食、下克上は、自然、天然、本能そのままで、人間的理想の対極にある要素の一つだと思います。
倫理観、道徳意識、良心を持たなければ、反対に弱肉強食、下克上は、屁理屈を付けた高度な如何にも人間的な行動なのかもしれません。動物も自然にも屁理屈はありませんから。

Kanna様
自己主張ができることは、自己防衛には大切ですね。自己主張をしなければ、相手の思うとおりに操られることになります。弱者であっても、仮令、結果的に食べられてしまうのだとしても、食べられる前にはしっかりと自己主張(拒絶)をし続けて欲しいと思います。そうすれば、拒絶の意思表示が大きな意思表示になるにちがいありません。(これは一般論で、子羊のような存在が社会には沢山います。)
by アヨアン・イゴカー (2014-01-20 23:13) 

sig

子羊のけなげさに打たれましたが、同時に神はなぜ、仔羊と狼のような弱者と強者を作ったのかと思いました(食物連鎖は分かっているとしても)。弱いものはただ知恵だけで世間を切り開いていかなければならないなんて、不公平です。
by sig (2014-01-21 17:29) 

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