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今様伊曾保物語 その6 [今様伊曾保物語]

 今日は、今様伊曾保物語その6であるが、順序がばらばらになっているのは、最初に全体の構成を考えた時の番号がついているためである。

今様伊曾保物語 その六 北風と太陽          2013/12/31火曜日

 

ある寒い冬の日でした。両側に畑があり、所々に樫の樹の立っている田舎の道を、旅人が歩いていました。先を急いでいるようで、まるでわき目もふらずにどんどんずんずん歩いているのでした。

その姿を空の上で、太陽と北風が見ていました。太陽が言いました。

「北風君。君と僕とで、どっちの方が人間にとって強いと思われているか、確かめてみないかい?」

「いいとも。僕は何時だって勝負するぜい。で、どんな勝負するんだい。」

「あそこの旅人、外套を着ているよね。あれを早く脱がせた方が勝ちだ。どう?」

2014-1-4 no.1.JPG「おう、望むところよ。では、僕が先にやってみせよう。」

 そう言うと北風は旅人目がけて、強い風を吹き付けました。旅人は慌ててボタンを締めます。「そう来たか。それならば」と北風は、もっと強い風を吹き付けます。土ぼこりが酷く舞うだけでなく、樹の枝が折れたりしています。旅人は両手でしっかりと外套を押さえて前のめりになって歩きます。「しぶとい奴だ。」と今度は、吹雪にして、猛烈な雪を吹き付けます。旅人はもう歩けなくなって、その場に坐り込んでしまいました。

「あぁ、何と言う酷い日だろう。何かあったのだろう。神よ、お助け下さい。」と旅人はため息をつきながら祈っています。

 それを見た太陽が笑って言いました。

「北風君。君の遣り方は、あんまり物騒だ。乱暴すぎる。そんなにしちゃ、外套を脱がせることはできないさ。まぁ、見てい給え。」

 太陽は、北風の吹きつけた雪を融かすように、温度を上げました。見る見るうちに雪は融け、さっきまでの真冬はどこかへ行ってしまったようです。

「おや、すっかり好い天気になってきたぞ。これで先を急ぐことができる。よしよし。」と旅人は言いました。でも、外套は脱ぎません。

「あれ、こんなに暖かいのに、外套を脱がないぞ。どうしたのだろう。もう少し暑くしてやれ。」と太陽は、温度を真夏のように高くしました。旅人は、額から汗を流しているのですが、急いでいるものですから、外套を脱ごうとはしません。

2014-1-4 no.2.JPG「何を、小癪な。もっと暑くしてやる。」

まるで、灼熱の砂漠のような強烈な日差しを旅人に降り注ぎました。旅人は火傷をしないように、外套でしっかりと手も顔も覆いました。そして、少しでも早くこんな酷い天気から自由になるために、必死になって歩き、山の向こうへ行ってしまいました。

 

 と言うことで、自分達の思い通りにしようとした北風と太陽の計画は失敗してしまいました。自分達の武器がいつでもどこでも通用すると考えない方が好いようです。


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Enrique

力を持つものがいつも思い通りに行くとは限らないこと,また民なり第三者なりがからむ場合,どちらかが勝つというよりも,両方負ける場合もあると言うのが痛快です。権力者といえ民を思い通りにはコントロール出来ないというのは歴史が証明していることでしょう。
by Enrique (2014-01-05 00:37) 

glennmie

Enriqueさんの仰るとおりだと思いました。
権力を持ってしまうとそれがわからなくなってしまうんですね。(しみじみ)
by glennmie (2014-01-05 23:54) 

海を渡る

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします^^。
by 海を渡る (2014-01-06 07:06) 

Kanna

アヨアンさんあけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします^^
面白いお話でした^^
まさか風も太陽も外套を脱がせられなかったなんて(笑)
原作も面白いですが、アヨアンさんのアレンジされた今様伊曾保物語も毎回とても意味深で面白いですね^^
これからも期待しています(笑)
by Kanna (2014-01-06 15:16) 

山子路爺

明けましておめでとございます。
今年も宜しくお願いいたします。

by 山子路爺 (2014-01-07 11:40) 

yuyaさん

明けましておめでとうございます。これからもブログでの様々な作品発表を楽しみにしています。今年も宜しくお願いします。
コメントありがとうございました。
アルはイブと仲良くしてくれています。イブは大きくなったらあたたかくなりそうです。^^
by yuyaさん (2014-01-07 21:17) 

アヨアン・イゴカー

夢の狩人様、森田恵子様、アリスとテレス様、sig様、kurakichi様、はせお様、doudesyo様、teftef様、ChinchikoPapa様、般若坊様、makimaki様、Enrique様、gigipapa様、kinkin様、ビタースイート様、めもてる様、ぼんぼちぼちぼち様、carotte様、さとふみ様、Nobuzo様、青い鳥様、ミモザ様、optimist様、glennmie様、くらま様、ハマコウ様、海を渡る様、yamagara22様、caveruna様、シラネアオイ様、砂漠のラクダ様、ミスター仙台様、せとっこ様、げいなう様、signaless様、mimimomo様、山子路爺様、シルフ様、e-g-g様、めぎ様、youzi様、YUTYA爺様、りんこう様、t-youha様、らしゅえいむ様、bee-15様、ken様、yam様
皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2014-01-13 18:43) 

アヨアン・イゴカー

Enrique様
私は他者から指示されることが嫌いなので、こんな話になるのかもしれません。権力や力を持った者に対しては、往々にして反抗的になります。
私は平生、人間も動物も自然も、放任しておけば、何か面白い、想像もつかないことが出来る可能性を秘めていると、中途半端な既成概念で当てはめて制限しない方がよいと考えています。

glennmie様
権力を持ってしまうと、自分が権力を持っていなかった時の気持ちが分からなくなってしまう傾向が強いようです。組織の中でも出世すると、口に聞き方や態度が変わってしまう人間がしばしば見受けられます。

海を渡る様
本年も宜しくお願いします。

Kanna様
今年も宜しくお願いします。「今様伊曾保物語」は絵入りの大人用物語として、だめもとですが、出版社に話をしてみようかとも思っています。

山子路爺様
本年も宜しくお願いします。

yuya様
今年も宜しくお願いします。猫ちゃんが突然イブちゃんになってしまったので、アルちゃんはどうしたのかと気になっていました。仲良しと言うことで、好かったです。イブちゃん既に大分暖かそうですね。


by アヨアン・イゴカー (2014-01-13 18:56) 

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