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『泣き女はつらいよ』の巻 [栗の里の愉快な女房]

 栗の里の愉快な女房殿も、体調が悪いとなかなかお気楽な楽しい会話ができなくなってしまう。随分長いこと不平不満をブイブイ言わせている悲しい時期が長かったが、このところやっと本来の明るさが戻り、彼女の亭主も少し安心したところである。この状態がずっと続いて欲しいものである。
 愉快な女房殿は女優である。だから、いろんなことを稽古して身につけて、まさかの役に備えている。スポーツジムへ行って脂肪を落としたり、腹筋を付けたり。風呂に入りながら或いは寝る前も、これはと思う映画をDVDで見る。ピアノの練習も結構熱心である。最近は殆どやらないがバイオリンだって時々練習する。尤も、バイオリンはコントの効果音として使う水準でしかないが。それでも、これはなかなか感心なことである。
DSCN2111.JPG 彼女が自分の出ている映画チラシを監督から貰ったのでそれを見ながらふと言う。「考えてみると、泣かなくっちゃならない時、割とあたしに出演依頼がくるのよねぇ。今回もそうだったけど、別の時もね。あたしさぁ、本気で泣いちゃうから。ところがね、あの映画の主役していた若い女の子がどうしても泣けないって言うのよ。何しろ気が強くって、悔し泣きしかしないっていうんだから。演技指導が難しいのよぅ。競争で負けない限り、強情で泣きゃぁしないのよ。自分が満足している限り、彼女を泣かせることはできなそうよ。」
「何?凄い子だねぇ。でもさ、昔の中国や朝鮮の哭き女でもあるまいし、僕も泣けないな、きっと。孟子なんか、子供の頃哭き女の真似をしたんで、孟母に引越しされて泣きまねができなくなっちゃたじゃない。もし、引っ越さなかったら、孟子も結構演技派になれたかも知れませんね。とにかく、演技で泣くなんて、僕には結構難しいと思う。」
「ちみちみ、ミーなんかは実に泣くのが上手いのよ。一寸悲しいこと想像しちゃうと、いくらでも泣けちゃうの。何しろ、子供時代から不遇で、暗い人生街道歩いて来たから、それ思い出せばいくらでも泣けちゃうの。」
「嘘つけ!そんなに暗い人生街道歩いていないと思う。君は本来はとっても明るい人だと思うぜ。」
「最近なんか、あたし達観しちゃって、演技でなけりゃ泣くことが少なくなったと思うなぁ。若い時に比べると、少しくらいのことで動じないようになってきているし。年取ると、一寸位のことで泣いたりしているのが馬鹿馬鹿しく見えるのよ。人生の酸いも甘いも分かってくると、下らないことで泣いている自分がみっともなく思えるのよ。やっぱりもう年かしら。」
「僕なんか、年取って随分涙もろくなってきちゃったと思う。結婚式なんかどうでもいいと思っているのに、花嫁が両親に送る手紙読むとこ、だめだね、ありゃぁ。泣く必要ないことは断然分かってるのに、姪っ子の策略に引っかかって、と言うか乗っかって、もらい泣きしちゃう。なんだ、あれ。あの手紙って、大したこと言ってなくってもぐっときちゃう。あれさ、昼日中、外で読んだら、感動するかなぁ。」笑いながら私がそういうと、女房殿もう目が赤くなって涙ぐんでいる。
「あれっ!達観して泣けなくなったんじゃぁないの?」
「だめ、だめ。これは例外ね、きっと。**ちゃんの結婚式思い出しちゃった。ウエディングドレス着た姿思い出すだけで、涙が出ちゃうの。」
 
 斯様に、女房殿はすぐに感情移入してしまう。そのため人の感情を素早く察知することもできるが、傷つきやすいのである。

※今日の絵は、ピカソの『泣く女』風にしようかとも思ったが、ピカソは浮気者ゆえ、あの泣く女の哀れな状況を思うと、やはり止める事にした。そして、結局は赤ん坊の泣いている顔の写真を見ながら描いた。
 泣く女の写真を探したら、いくつかの若い女性の泣き顔があった。しかし、どれも下手な作り泣きで、不採用。子供のお芝居のような仕草。やはり、こんなのを見比べると、女房殿はなかなか演技派である。


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コメント 7

mimimomo

おはようございます^^
確かに齢をとると涙もろくなるけれど、達観して泣くことも少ない。
それでいてかなしいことを思い出すと直ぐ泣ける・・・
なんだか支離滅裂なようだけれど、そうなんですよね、わたくしも。
あら、わたくしも演技派?・・・ありえないわ(--
by mimimomo (2012-12-24 08:00) 

Enrique

年取ると涙腺もゆるんで来ますが,あまり悲しさで泣く事は無くなりました。しかし怒りを覚えることとは反対の事象に関してはジーンと来ます。
泣きの種類もイロイロに分化してくるのでしょうか。分化以前のiPS細胞のような泣き顔ですね。
by Enrique (2012-12-24 15:27) 

youzi

゚・:,。★\(*'v`*)♪merryXmas♪(*'v`*)/★,。・:・゚
ステキなクリスマスになりますように★
by youzi (2012-12-24 19:51) 

Kanna

私も若かりし頃は女優になりたくて、どこかの劇団に入りたいなあとモヤモヤ思っていた頃がありました(笑)
その頃は確かに辛い事も多く、いつだって泣けるわと思っていましたが、今はもうだめですねー。
傷付く事はあっても、だんだん泣けなくなって来ました。
そういうエネルギーが年を重ねるごとになくなって来ているのかもしれません。。
怒りのエネルギーで泣くよりもむしろ、アヨアンさんと同じで何かの温かさに感動してほろっと泣く方が多いかもしれません(笑)
by Kanna (2012-12-24 22:29) 

yuyaさん

奥様が女優さんであると、また違ったインスピレーションを受けそうですね。きっとお互いに影響を受けあって、作品や演技に表れてくるのかなと思いました。
by yuyaさん (2012-12-28 12:06) 

アヨアン・イゴカー

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皆様nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2012-12-28 15:30) 

アヨアン・イゴカー

mimimomo様
本当は涙もろくって、感動し易い妻が「達観」など言ったので、私は言下に反証を出してみました。気分は「達観」ですが、現実は「いと涙もろき女」なのであります。私は、涙もろいことは好いことだと思っており、それが好きでもあります。

Enrique様
分化以前のips細胞の泣き顔と言うのは、これからいろいろな場面で応用する前の、基本的な泣き顔と言う意味でしょうか?この顔は赤ん坊が泣いている顔を基にして女性の顔にしましたが、どのような状況で泣いているかは想定していません。そして、涙は別の紙で作って、上に並べて写真を撮りました。鋭い御指摘です。

youzi様
新宿西口の通は、結構人々でごった返していましたが、クリスマスは忙しく仕事をしておりました。おまけに、年越しの宿題がいくつも残ってしましました。

Kanna様
私も怒りで泣くことはありません。暖かい人間の心、思いやりなどに触れると痛く感動し、ついでに涙腺がゆるむこともままあります。
私は、中学校の頃、高校の頃、演技をしてみたくて仕方がありませんでしたが、結局芝居を演ずることはありませんでした。シェークスピアが大好きだったのです。

yuya様
彼女は、実に面白い人々と出会う運命を持っているようです。個性の強いシナリオ作家、あくの強い人、虚言症の演出家、ナルシストの大学院生、超自己中心的、利己的女優志望の女性、劣等感に満ちた被害妄想のプロデューサーの卵・・夫々が小説、物語の主要な人物になりそうです。
一人だけ、この『栗の里の愉快な女房』に登場させました。
by アヨアン・イゴカー (2012-12-28 15:54) 

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