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北海道の思い出 その16 [北海道の思い出]

    

 内地に引っ越してきてから、冬に雪を見られないと、私は淋しくなった。空がどんより曇り、雪片が舞い始めると、うきうきし始める。実は、今でもそうなのだ。「ゆきや こんこん あられや こんこん・・犬は喜び 庭駆け回る・・」中で歌われる犬は、私の気分をそのまま表している。雪は、吹雪いて視界を零にすることもあり、春の雪解け水が冷たくて足の指を霜焼けにするし、道路がぬかり長靴でないと歩けなくなるし、積もった雪を放っておくと屋根を潰してしまうこともある。しかし、それでも懐かしい。『雪女』『白い樵と黒い樵』『雪の女王』『ライオンと魔女』『雪渡り』など、雪の描写の出てくる物語はどれもその雪の存在をそのまま追体験できるような気がする。

 北海道の雪は内地の水気の多い牡丹雪と異なり、もっとさらさらしていた。雪の降った翌日晴れたりすると、姉や兄たちと橇遊びをした。白銀の世界で、真青な空、輝く陽射しの中で、子供たちははしゃいだ。

 雪と言えば、父が砂糖を掛けて食べた。それほどアイスキャンデーが好きだったのだ。

が、ある時、赤い雪が降った。ソ連が原爆実験をした証拠の雪だった。その雪を見て以来、父は雪に砂糖を掛けて食べることはなくなった。

 一九五四年三月一日、ビキニ環礁で操業中の第五福竜丸がアメリカの水爆実験による死の灰が落ちてきて、被爆した。

 

 田舎の金持ち自慢 

 こんな田舎の小学校でも、貧富の差が歴然としていた。私が今でもはっきりと思い出すのは、ある貧しい小さな少女のことだ。彼女の家は本当に貧しく、着るものがないと言う噂があった。この少女も彼女の姉も薄汚れたズボンの下には下着を履いていないと言うことだった。男子が「おい、お前パンツはいてないんだろう!」とズボンを引っ張って苛めていた。顔が小さくて見るからにか弱そうな、痩せた少女で、いつも小水の臭いが漂っていた。顔立ちは整っていたような気がするのだが。もう一人、特に貧しい少年がいた。大某君と言った。彼はいつも跣だったような気がするが、多分、ゴム製の短靴を直に履いていた。頭や足におできがあって、化膿していて、生臭いような臭いがした。彼も学級の中で苛めに会い孤立していた。いじめっ子が彼に暴力を振るおうとした時、大某君はストーブ用の薪を手に取って振り上げた。私も正義感に従って、大某君を庇ったように記憶している。大某君は薪で相手を殴ることはなかったが、皆驚いた。television set.JPGこの大某君は、私に好意を抱いてくれていたのか、秋に栗のなる所を私だけに教えてくれると約束してくれた。一才年上の上級生が、大某君に栗のなる場所を教えるように迫っていたが、彼が断固拒否しているのを知っていたので、私は嬉しかった。結局、関東に引っ越して来てしまったので、彼に栗のなる場所を教えてもらうことはなかった。

 片や、テレビが家にあることを自慢する少年がいた。蝶ネクタイをした、如何にも嫌味などら息子風の子だった。もう一人テレビが家にある子がいた。私も自宅にはなかったが、「東京の御祖父ちゃんの家にはあるんだぞ。」などと、妙な自慢をした。慙愧に耐えない。蝙蝠が鳥だと言うような、訳の分からない自慢である。誰もそれに対して、反論しなかったのだから、田舎の少年たちの理屈は素朴なものである。多分に「東京の御祖父ちゃん」と言う言葉が葵の紋入り印篭のような権威を持ったのではないかと今では思う。今でこそ落ちぶれてはいるが、実は平家の落人だったのだ、と言う屈折した誇りのようなものだろうか。そのものにどれだけの意味があるかは別にして、そのような誇りを持つ人が時々いる。誇りは人間として生きていくうえで、大切な要素である。(尚、我が家は平家ではなく、藤原氏系であることになっているようだ。)当時、東京は大都会で、今以上に外国のような別世界だったのだから。斯様に、人間は老若男女を問わず、自己の存在を大きく強く見せようと背伸びする傾向があるようだ。


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コメント 7

青い鳥

赤い雪が降ったなどというリアルな体験をしていらっしゃるのですね。
東北に住んでいた私ですが、赤い雪の記憶はありません。
貧富の差による小学生のいじめ、お話を読んでいて悲しくなりました。
自分にはどうすることもできない事なのに。
by 青い鳥 (2012-06-17 15:41) 

mimimomo

こんにちは^^
子供のころは頭脳のいいもの、腕力のあるもの、お金持ち・・・
それぞれに憧れがありましたね~
しかしそれが子供の子供らしいところでした。今の子供はかなり違ってしまっていますが。
by mimimomo (2012-06-17 17:54) 

Enrique

学生時代雪を飯ごうで解かして水にした事がありますが,結構キタナくてぞっとしました。空気中のチリ・ホコリを核に雪が出来ていることを再認識しました。赤い雪というのはショッキングですね。
第五福竜丸の事件は少年向けの書籍で読んで,子供ながらに核兵器の問題を考えていました。
ほんの半世紀余り前はまだ貧しい家庭が多く,身なりが汚い子供,洟をたらした子供などがあたりまえでした。
by Enrique (2012-06-17 20:46) 

Mineosaurus

私の家系も平家の落人らしいです。
私の家にもありましたねテレビ。近所の子供が見に来てました。七色仮面とか、三馬鹿大将とか…見てると父に叱られたものでした。
by Mineosaurus (2012-06-18 07:10) 

yuyaさん

雪が降ると楽しい気分になりますね。^^
特に雪化粧をした山々は個人的に好きです。
深深とした寒い空気の中でも、真っ白い雪があると何故か心地好くも感じられます。
by yuyaさん (2012-06-21 16:04) 

アヨアン・イゴカー

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by アヨアン・イゴカー (2012-06-24 11:28) 

アヨアン・イゴカー

青い鳥様
赤い雪の体験は、姉や兄から聞いた話です。私は、そのようなことを認識できる年ではなかったと思います。
いじめの問題は、昔からありますが、本当に悲しい人間の性だと思います。なくす事はできないでしょうが、少なくすること、被害者を救うことは出来ると思います。

mimimomo様
子供の頃の価値観というのは、実に軽薄で滑稽なくらいですが、実は大人社会でも文化を作っているものの基盤はそうしたものである気がします。

Enrique様
子供の頃私は洟を垂らしていましたが、青っ洟と言うのを垂らしている子供が沢山いました。最近見たことがありません。食糧事情が好くなっていることが理由のようですが。

Mineosaurus様
神奈川県に引っ越してきてからも子供の頃、暫くテレビのない生活でした。近所の家に見に行きました。ちびっ子ギャングと言う名前のアメリカの番組もありました。

yuya様
雪は、大変な思い出もありますが、どうしても楽しい時の記憶が優先されるようです。『ナルニア国物語』を読み始めてからは、毎年雪が降るのが待ち遠しくて仕方ありませんでした。『ライオンと魔女』の雪の場面が、北海道への郷愁を掻きたてたのかもしれません。
by アヨアン・イゴカー (2012-06-24 11:42) 

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