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今様腰折れ雀 [短編小説]

今様腰折雀    二〇一一年三月十日水曜日

 

 らっきーな婆さんが日向でうつらうつらしていると、雀が一羽飛んできました。なんだか羽ばたき方が変なので、婆さんは目を開けてよく見ると、どうやら腰が折れているようでした。可哀想に思い、婆さんは餌をやって面倒をみてやることにしました。

この雀は日吉丸と言う名前を頂戴していましたが、婆さんが近くに来ると嬉しそうにちゅんちゅんと言って、餌をねだるまでに懐きました。「おお、餌か餌か、日吉丸。」と言って掌に米粒を載せると、飛び乗ってきて啄ばむのでした。すっかり元気になった日吉丸は婆さんが近所に散歩に行けば、婆さんの周りを飛んで大はしゃぎです。近所ではもっぱらの評判になりました。

ある日、日吉丸が突然姿を消してしまいました。「日吉丸や、日吉丸や」と探しますが、影も形もありません。婆さんはすっかりがっかりして、二日もしょんぼりとしていました。食欲もなく、食べるものは梅干と御飯を少し。

でも、ご安心。日吉丸はちゃんと帰ってきました。婆さんは大喜びです。日吉丸も婆さんの肩に止まったり手に止まったり羽ばたいたり。「なんだい口に咥えているのは?」雀の口には種がありました。それはあの昔話にある瓢箪の種ではなく、糸瓜の種でした。「あら、こんな種を持って来てくれたの。嬉しいねぇ。なんの種か分かりませんけど、蒔いておきましょう。日吉丸が持って来てくれたのだから、きっと可愛い花が咲くだろうよ。日吉丸の花と呼ぶことにしましょう!」

hiyoshi-maru, welcome back.JPG暫く経つと種から芽がでて葉が出て、どんどん大きくなりました。そして夏になると見事な糸瓜が生りました。早速取って味噌煮にしたり、味噌汁に入れたりして美味しく食べました。それでも沢山取れて食べきれないので、それを煮立てて濾過して瓶に詰めて化粧水を作りました。瓶には自ら墨で『雀の糸瓜水』と書きました。それが近所に口コミでその効果が大評判になり、婆さんに分けて欲しいと言う女たちが押し寄せ、結局随分お金を儲けることができました。

それを見ていた隣のあんらっきーな婆さんが、自分も同じことをしようと腰折れ雀を探しました。しかしながら、そんなに簡単に腰折れ雀など見つかる筈もありません。頭にきた気の短い婆さんは、石を投げて雀を捕まえました。雀は頭から血を出していました。そして如何にも可哀想だという臭い演技をしながら、餌をやって暫く様子を見ていました。雀はやっぱり一週間もすると飛んでいなくなってしまいました。

「しめしめ、これであたしも少しは金持ちになれるかもよ、爺さん。」とほくそ笑んでおります。「しかしなぁ、婆さんや。隣んちの婆さんは、雀が居なくなったっていって、随分しょげていたが、お前はまるで雀のことを心配していないの分かってしまうじゃないか。もっと上手に演技をしなけりゃぁ、雀も、碌なもの持って来やせんよ。」こう言われて黙って引っ込むような婆さんではありません。爺さんを恐ろしい目で睨むとラマダン宣言をします。「あぁ、食わなきゃいいんだろうに、食わなきゃ。」で取りあえず一日絶食をして悲しみを表現して見せます。聞こえよがしに竹薮に向かって「あぁ、可愛い雀が、可愛い雀が・・・よよよ。」本当にぷんぷん臭い演技であります。こんなことをして大分痩せてしまうのかと思いきや、三日目にはやっぱり腹が減って仕方が無いので、塩辛や納豆やら沢庵やらをたんと食べて元気回復。朝から近所迷惑も顧みず、大音量で、元気に庭でラジオ体操なんかをやっております。

とそこへ、件の雀が飛んできます。婆さんの手の中に種を一粒落として飛んでゆきました。「なんだい、けちな雀だよ。たった一粒の種だよ。まぁいいや。植えてみよう早速。美味しい糸瓜が生るかもしれませんからねぇ。」

楽しみに待っていますと、その種からは芽がでて葉が出て、憎まれっ子世にはばかるごとしで、どんどん成長してゆきます。蔓が出て可愛い小さな白い花がぱっぱと咲きます。これを見て婆さんは、糸瓜ではないことが分かりましたが、それでもこの花で自分も美顔水を作ってみようと思い、花を集めて煮詰めて瓶詰めにしました。真似っ子ばあさんですから名前も『雀のくれた宝物』などと言う名前をつけて行商に出てみました。ところがこの瓶を開けて臭いを嗅いだ近所のおばちゃん達は顔を顰めました。「これ、臭い!屁糞かずらでしょ、これっ!」可哀想なことに、このあんらっきーな婆さん、鼻が詰まっていて、臭いを嗅ぐことができません。煮詰める時には凄まじい臭いがした筈なのですが、平気の平左だったのです。大恥を掻いて終わりました。

 

らっきーなばあさんは、無欲でしたから儲かっても儲からなくっても人生楽しく暮らしておりました。

暫く経ってから、ばあさんが縁側で豆よりをしていると、日日吉丸が飛んできました。「あら、日吉丸。どうしたの?」日吉丸はばあさんに何かを訴えるように竹薮の方に向かって飛んでゆきます。その後を付いて行くと、薄暗い竹薮の中に葛篭がありました。婆さんが開けてみると、何とそこには行き場を失ったらしい札束が腐るほど、実は少し黴が生えていましたが、入っていました。今更お金なんか欲しくないですから、さっさと警察へ届け出ました。それが持ち主が現れなかったために、婆さんのものになってしまいました。他人が捨てたものを貰って得をしたと言うような了見は微塵もございませんので、すぐに全部寄付してしまいました。人徳と言うのでござんしょうが、こんな風にしていると、例の糸瓜水が爆発的に売れたりするのでした。

それを知って、いよいよ妬んだのがあんらっきーな婆さんでした。頭にきたものですから、つい雀に二個の石を投げつけて落としました。雀は死にそうになりましたが、最後の力を振り絞って飛びながら、婆さんを招きました。やはり竹薮の方へ行って地面に落ちました。地面でばたばた苦しがっている雀を放ったらかして婆さんは竹薮の中へ飛び込みました。するとずぼっと穴に足を突っ込んでしまいました。「えいっ!忌々しい糞ったれ雀め!人を馬鹿にして!」と罵ります。どうやら筍の盗掘あとだったようです。「どうして、ねぜ、何条わしはこんなにあんらっきーなのか?」と自分が情けなくなって、泣き始めました。ややあって、涙を拭いて少し先の方を見るを、藪の奥に布袋が転がっています。それもまだ新しそうでした。気を取り直すと、そこまで足を引き摺りながら行きます。そして信玄袋の紐を緩めてみると、中には沢山の新札が入っているではありませんか。「おうおう、わしもとうとう、ついにあんらっきー脱出じゃぁ!万歳!」ばあさん、黙っておいて猫糞をきめてやろうかとも思いましたが、どうせ捨ててある金だから誰も取りには来ないだろうと踏んで、半ば意志には反していましたが、警察に持ってゆきました。警察ではいろいろ尋ねられ、つい「ぽちが泣くので裏の庭を掘ってみたら出てきた。」などと嘘をついてしまいました。

数日してから警官がやってきました。婆さんはきっと持ち主がみつからなかったのだろうと早合点して、喜ぼうと相好を崩しかけていたところ、偽札であることが分かったので詳しく事情を聞きたいと言われてしまいました。おお、なんとあんらっきー!つい思いつきで口から出任せを言ったことが災いとなり、散散絞られ嫌味を言われた後解放されました。

あんまり口惜しくって業腹がたつもんですから、このあんらっきー婆さん、らっきー婆さんのところへアルバイトの申し込みをしました。繁盛している糸瓜水の売り子を買ってでたのです。あんらっきーな自分が働くことでらっきーな婆さんに自分の不幸を少しでも味わわせてやろうという意地悪な魂胆です。らっきー婆さんは超能天気人間ですから、どんな魂胆があろうが気にもしません、邪推もしません。売り子として即座に採用しました。

妙なもので、このらっきー婆さんは何事も上手く行くような星の下に生まれているようです。あんらっきー婆さんが来てから、売り上げは落ちるどころか更に上がりました。

事情はこんな風だったのです。あんらっきー婆さん、採用と言われるとしめた、と言いました。そして糸瓜水を買いにくる客に対して荒々しい言葉、を使うやら、暴言を吐くやら、悪態をつくやら、それは酷い有様でした。ところが、お客の方はそれが全て本気ではなくて冗談、洒落だと思っていますから「まるで、一人で漫才やっているようなお婆ちゃまですね!」「威勢がいいわね。」などと予想外の褒め言葉であります。そう言われてみるてぇと満更でもなくなるのが人情と言うもの。勇気百倍、頑張ってしまう運命と相成ったのであります。その結果ボーナスまで頂戴してしまって、すっかりらっきーな気分になり、段々人にも動物にも植物にも、路傍の石にも優しく語り掛けるようになりました、とさ。

これは超能天気パワーの話でありました。おしまい。


nice!(65)  コメント(16) 

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コメント 16

青い鳥

nice!を100こ押しても足りないくらい面白く読ませて頂きました。
終わり方も罰を与えるような形ではなく、
優しい気持ちになれるハッピーエンドでほっといたしました。
挿絵のスズメさん、可愛いですね。
by 青い鳥 (2011-03-27 14:44) 

雉虎堂

私はらっきーばあさんほど人徳ないし
あんらっきーばあさんほど
自分の運命に挑戦してないなあ

反省しきりです(^^ゞ
by 雉虎堂 (2011-03-27 14:54) 

mimimomo

こんばんは^^
雉虎堂さんの仰るように、わたくしもです。
何とも中途半端な人生ですね~ でも純粋に平凡でもない・・・(__;
by mimimomo (2011-03-27 19:17) 

月夜のうずのしゅげ

落語を聞いているような面白さでした。じーさんもばーさんも悪賢いほうが、ほんのちょっとよい人たちの影響を受けて、まともなところを見せ始めると、なんだか急に可愛げがあるように見えて来て大笑いです。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-27 20:29) 

にすけん

 その昔、会社の管理職や役員どもに一番叩き込むべきは、昔話にある善悪と幸不幸の基本だと叫んだ事があります(笑)
by にすけん (2011-03-29 02:07) 

sig

こんにちは。
簡単に反省して心を入れ替えてめでたしめでたし、が昔話のようですが、さすがアヨアン・イゴカーさん、オチがほのほのとしていいですね。
by sig (2011-03-29 16:11) 

yuyaさん

今回のお話も豊かなタッチで面白いですね。
ちゃんと哲学が織り込まれていて勉強になります。
挿絵はふっくらと優しい感じがして、ほのぼのとしました。

by yuyaさん (2011-03-31 01:08) 

kenkenken

あんらっきーだから意地悪だったのですね。本当によくわかります。
お年寄りに席をゆずるのも、らっきーな「らぶらぶかっぷる」が多い、なんて聞いたこともあります。わたしはあんらっきーで人にやさしくできるかしら。。。
by kenkenken (2011-04-01 23:55) 

アヨアン・イゴカー

青い鳥様、雉虎堂様、海を渡る様、えれあ様、kurakichi様、もめてる様、スー様、takechan様、gigipapa様、mimimomo様、flutist様、SORI様、旅爺さん様、今造ROWINGTEAM様、月夜のうずのしゅげ様、schnitzer様、リュカ様、野うさぎ様、Halumi様、carotte様、くらま様、ami様、takemovies様、ChinchikoPapa様、りんこう様、Krause様、夢空様、kakasisannpo様、chiho様、BALUO様、悠実様、YUYA様、mayasopia様、にすけん様、K様、doudesyo様、ゆきねこ様、水郷楽人様、kohtyan様、sig様、Mineosaurus様、orange-beco様、兎座様、ryo1216様、optimist様、めぎ様、扶侶夢様、シラネアオイ様、pokochan♪様、asahama様、siroyagi2様、duke様、さとふみ様、Goshu様、スマイル様、ぼんぼちぼちぼち様、よっちゃん様、miffy様
皆様 nice有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2011-04-10 22:39) 

アヨアン・イゴカー

青い鳥様
100もniceを、大変嬉しいお言葉有難うございます。元気がでます。

雉虎堂様
最近は、らっきーな人というのは実在するものである、と思います。不思議なもので、その人の実力はそれほどでもなくとも、運よくことがその人の期待するように運んだりすることがあります。

mimimomo様
純粋に平凡でもない・・・何だか面白そうですね。

月夜のうずのしゅげ様
落語、大好きですから、このように言って頂けると嬉しゅうございます。

にすけん様
>昔話にある善悪と幸不幸の基本
因果応報的と言うことでしょうか?働かざるもの食うべからず、のようなことでしょうか?

sig様
sigさんはご存知でしょうか、ジャータカ物語。あの物語の中にはとても良く構成されたものがあります。ああいう物語が書きたいものです。

yuya様
この雀は妻にも可愛いと言ってもらいました。私は素朴な柄の雀が大好きです。

kenkenken様
人に優しくなれるかどうか、それは健康上余裕があること、相手と同じ境遇になったことがあること、などが条件ではないでしょうか。
確かにらぶらぶのカップルは、心にゆとりがあるのでしょうね。
ご訪問有難うございました。
by アヨアン・イゴカー (2011-04-10 22:55) 

sig

こんにちは。
釈迦にまつわる物語でしょうか。よく知りませんが、輪廻転生のようなものでしょうか。
by sig (2011-04-12 20:54) 

zenjimaru

子ども頃、レンガを使ってよく雀を獲ったものです。
でもめったに獲れませんでした^^
子雀が巣立ちでうまく飛べなくて庭に落ちてきた事があり
しばらく餌をやって逃がしたのですが、その後何にも起きませんでした。
生き方が不純だからでしょうか^^
by zenjimaru (2011-04-15 17:22) 

アヨアン・イゴカー

sig様
お釈迦様の前世の物語です。
とても道徳的な教訓的な内容ですが、物語はどれもとても良く出来ています。例えば「兎の施し」は、旅のバラモンに施す為に自分が火の中に飛び込むことで捧げようとする兎の物語です。子供の頃に、劇団木馬座の影絵で見ました。
物語の筋書きが非常に巧みで、読み物を書きたい人ならば大変参考になるのではないかと思いました。

zenjimaru様
お久しぶりです。
煉瓦を使って雀を獲った?煉瓦で造った囲いの中に閉じ込めたのでしょうか?
小雀は、飼育が難しいですね。子供の頃、風呂場の煙突の中に雀が巣を作り、それを煙突掃除していた兄が雛をみつけました。餌をやったのですが、直ぐに死んでしまいました。知識の名子供には飼育が難しかったのです。
by アヨアン・イゴカー (2011-04-20 00:45) 

Kanna

見事などんでん返しですね。
爽快極まりないです。
石を投げつけるなどの痛々しい表現もあり、少々心が痛みましたが、偽札だと判明したところのくだりでは思わず笑ってしまいました(笑)
いや~面白いお話でした。
挿し絵も良いですね!

by Kanna (2011-05-13 17:44) 

アヨアン・イゴカー

Kanna様
ジオシティのブログが休止していたので、心配しておりました。
コメント有難うございます。
人には随分運不運があるものだと感じることはないですか?
このてのふざけた話は、これからもいくつか書きたいと思っております。
by アヨアン・イゴカー (2011-05-14 10:14) 

九子

はじめまして。昨日はnice!を頂戴し、有難うございました。
やっとアヨアン・イゴカーの芸術の森へ足を踏み入れました。( ^-^)

動画あり、絵画あり、音楽あり、文学ありで、どこから拝見したらいいのか迷う事ばかりです。

素晴らしい奥様も芸術家さん。羨ましい限りです。

この雀のお話はとても面白く読みました。
何と言っても正直ばあさん、意地悪ばあさんではなくて、ラッキー、アンラッキーという仕分けがすごく良かったです。
本当にそんな違いなんだろうなと思い至りました。

これからも前のほうを読ませて頂きに来ようと思います。
たぶんたまに来てまとめ読みになるかと思いますが、よろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
by 九子 (2011-05-30 22:14) 

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