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コメディオンザボードの『アチャラカ荘の人々』をシアターχ(カイ)へ観に行く [日記・雑感]

 今日は両国にあるシアターχ(カイ)へ『アチャラカ荘の人々』と言う芝居を観に行く。6月10日の火曜日から上演していて今日15日の日曜日が千秋楽である。
 午後二時開演なので、一時半頃に到着した。既にロビーには人が何人もいた。整理券を配っているので、もしや席がなく、立ち見もあるのか、と一瞬心配したが、杞憂であった。正面真ん中の一番好い席が数列空いていた。

 <コメディ オン ザ ボード+シアターχ(カイ)提携公演。~昭和・怪し芸人伝~>
 
 チラシの案内には次のような呼び込みの文章が書いてある。

 <昭和30年代、東京の下町に『アチャラカ荘』と呼ばれる芸人アパートがあった。そこに生息する奇妙な芸人達が織りなすおもしろ人間模様。あなたの知らなかった昭和芸能史。しりたくなくてもお見せします。>

 それなりの客席もあり、音響も、照明設備も整っている劇場にいるにも拘らず、まるでどさ回りの芝居を観ているような懐かしさ。それが第一の感想である。劇として、物語の展開や構成を楽しむのではなく、一人ひとりの芸をどこで、どの程度楽しむことができるか。娯楽としてどれだけ観衆に受けるか、それが勝負である。それらは劇中劇として演じられる。浪曲あり、漫才あり、腹話術あり、奇術あり、腹芸あり。芝居の展開は、これらの芸の合間に展開される。
 物語としては、これまで演芸場などで庶民のために娯楽を提供してきた芸人達が、テレビと言うマスメディアの出現によって、その職場を奪われてゆく。興行師の下でまとまっていた人々が散り散りになってゆく。その人々が住んでいた場所が、このアチャラカ荘である。芸人たち以外には、女子生徒と駆け落ちしてきた高校の国語の先生やハワイから日本的な芸を持った芸人を探しに来たムギ・マリア・金城なる女性も登場する。
 舞台空間は4つある。客席。アパートの建物。干したシーツに写し出されるモノクロの写真。舞台上に並べられた白い衝立による寄席の舞台空間。それらが、無理なく交代しながら展開してゆく。
 17人の役者たちが登場する。そのうちの多くが年配である。若者の劇団公演に対抗、否、抵抗する熟年軍団の芸人たちである、と感じた。舞台に華やかさはそれほどないが、渋さ、味がある。台詞に輝きがあるものはないが、ちょっとした駄洒落がいかにも庶民的で、衒学的な嫌味がない。深みもないが、それは意図されていないのも分かる。
 芝居は、個々の芸人達が浮き彫りされるように作られているため、オムニバス形式のように、一つずつの場面の輪郭がはっきりとしている。題名を忘れたが、下北沢のザ・スズナリで上演された斉藤憐の戯曲を思い出した。あの斉藤作品も、馬頭琴の演奏があり、語りがあり、楽しい作品だった。
 女性奇術師も、その台詞の間、マギー四郎よろしく話術でかわしながら易しい手品を披露する腕前は大したものである。アチャラカ荘の住人として小母ちゃんを演じている姿と、舞台衣装着て、派手な赤いリボンをつけ手品をするその大きな変化ぶりが、とても印象に残った。
 芝居の最後に、100歳を超えたこの芸人達が再登場する。真直ぐ歩くこともままならぬ老人たち。ふらつきながら歩いて出てきて、止まることが出来ず上手袖まで突入し慌てて後退してくる老人の演技は、迫真の演技ではなく、メキシコにある『老人の踊り』に似ていた。そのわざとらしさは、演技を超越し、ネタの領域に入っている。だから、客は存分にそのわざとらしさを楽しむことができるのである。

 喜劇やお笑いの好きな私ゆえ、こういう芝居はまた観たいと言う気持ちになる。
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花火師

こういうお芝居も面白そうですね
by 花火師 (2008-06-17 01:20) 

旅爺さん

おはようさ~ん♪
演芸場は色んな芸が見られて楽しいですよね。浪曲は最近聞かないです。
爺の日祝いありがとう、今日も頑張りま~す。
by 旅爺さん (2008-06-17 07:31) 

アヨアン・イゴカー

さとふみ様、すうちい様、lapis様
nice有難うございます。

花火師様
こういう娯楽性の高い芝居を観ることはなかったのですが、観にいってよかったと思いました。やはり、娯楽性を追及すると、芝居でも、基本的な芸が大切だと感じました。役者さんたちは、芸のない人は、この芝居のために先生について習ったそうです。

旅爺さん様
芸は身を助く。いろんな芸、もっと知りたくなりました。
by アヨアン・イゴカー (2008-06-18 01:04) 

8macky

いいですね、この時代感。

藤子不二雄の「まんが道」に出てくるトキワ荘も、
やはり、30年代の景色です。
漫画に情熱を捧げる青年たち、すごく活き活きとしていて、
あごがれちゃう世界です。

この記事の芸人たちもとてもエネルギッシュで、
すごく、元気な時代だったんだろうなぁ、って
想像できますね。

きっといい時代だったんでしょうね。

by 8macky (2008-06-18 01:04) 

にすけん

 長らく御無沙汰してしまいました。
 時間がないので弦楽四重奏は改めて拝聴したいと思います。音楽、演劇を問わずパフォーマーの目から人さまを眺めて読み深めるのは楽しいものですね。
by にすけん (2008-06-19 10:24) 

アヨアン・イゴカー

8macky様
文化でも、思想でも、社会体制でも過渡期と言うものに常に現在進行形で直面していると思います。そして渦中にある人間は、その意味がよく分からず、一定の時間、距離を離れることで冷静な分析ができるようです。時間的にも空間的にも岡目八目が当てはまるのだと思います。

にすけん様
niceとコメント有難うございます。この芝居にヒロポン中毒患者という有難い
役を頂戴した身内のものがいましたが、中毒患者を演ずるのは難しかったようです。でも、別に真実味が無くともいいと思います。ここでは迫真に迫ったヒロポン中毒患者の演技が求められていた訳ではないので。

by アヨアン・イゴカー (2008-06-20 00:21) 

アヨアン・イゴカー

AWFUL様 nice有難うございました。
by アヨアン・イゴカー (2008-06-20 00:29) 

SAKANAKANE

『アチャラカ荘』って、はっきりと思い出せないんですが、聞き覚えが有りました。
私も、たまに演劇等を見に行く機会も有るんですが、メジャーにしろ、マイナーにしろ、目から鱗的な体験ができると、面白いですよね。
by SAKANAKANE (2008-06-21 01:43) 

アヨアン・イゴカー

doudesyo様 nice有難うございます。

SAKANAKANE様
若手芸人たちが銘々訳の分からない芸名を作り出します。現在の私は若手芸人たちの芸名を批判的に見ていますが、自分達が子供の頃に聞いたり、あるいは、後で当時そのような名前の集団がいたとか、芸人がいたという事を知ると、なんの抵抗もなく受け入れてしまいます。恐らく、現在、訳の分からない芸名の芸人たちも、将来生き残っていれば、その訳の分からない芸名が懐かしく思い出されることになるのでしょう。芸名は時代を反映しています。
by アヨアン・イゴカー (2008-06-21 11:52) 

夢空

ご訪問ありがとうございました(*^_^*)
今後ともよろしくお願いします☆
by 夢空 (2008-06-21 16:44) 

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